吉祥読本

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テロルの決算 --沢木耕太郎

今久しぶりに本書を手にとって見て、こんなに薄かったっけ?と思ってしまいました。
勿論ページ数はそれなりにあるのですが、印象としてはもっと厚い本だったような気がしていました。
そんな錯覚をするくらい色々なものが詰め込まれた本だったんだなあ。


1960年、日比谷公会堂で演説していた当時の社会党委員長、浅沼稲次郎
17歳の少年だった「山口二矢(ヤマグチオトヤ)」が刺殺した事件を
沢木耕太郎が丹念に取材し、はじめて書いた長編です。
これを契機に初期の作品を読みまくりました。

二十歳くらいのころ読んだのですが、正直なところ17歳の少年が一人でこんな事件を
起こすなんて信じられませんでした。
山口二矢の起こしたことの良し悪しは別として、自分が17歳の頃にここまで真剣に
国や家族のことを考え、なおかつその通りに行動を起こすだろうか、
と自問しても答えは考えるまでもなく、
そんな純粋さは持ち合わせていなかったと断言できます。

白黒の映像でしたが演説中の浅沼稲次郎を刺し、取り押さえられる瞬間の映像を
テレビで見たことがあります。
会場の少し離れたところからの映像だったので細かいところはわからないのですが、
本書の最後でそのときの状況が語られています。
取り押さえた警官が凶器を握ったときの行動なのですが
その部分だけで山口二矢の覚悟と純粋さが伝わってきます。


山口二矢だけを主人公にしてもこの作品は成立したかもしませんが、
浅沼稲次郎の生涯も同様に描くことで、作品に厚みがでたのではないでしょうか。
本来なら出会うことのなかった二人がなぜ交錯したのかを徹底的に知ろうとする
著者の熱意、思いもとても伝わってきます。

そんな熱を伝えてくれる、力量のある人ですね。沢木耕太郎って人は。


深夜特急」シリーズが出る前に沢木耕太郎から離れ、それ以降は数冊しか読んでいないのですが、
深夜特急」を若い頃に読んでいたらバックパッカーになっていたかもしれません。

それもありだったかな・・・?