吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

のぼうの城 --和田竜

これは「王様のブランチ」というTV番組でやっている本のコーナーで紹介されたのを見て知りました。
久しぶりに面白い時代物が読めるのか?と楽しみにしていたのでした。



豊臣家として石田三成が率いる二万人を越える攻め手、北条家の支城である忍城に立て籠もる
数百人の守り手(百姓を加えて数千人)のせめぎ合いが描かれている。

 

戦国時代には有名な武将が数々いるなかでかなり地味なところにスポットを当てたものだ。
私が知らないだけかもしれませんが。。。(汗)

 

設定としては鉄板ですね。
あとはキャラクター、戦略、戦う双方の心模様をどう表現するか、といところだと思うのですが・・・

 

物量作戦で押し寄せる石田三成軍が翻弄される場面は確かに面白い。
娯楽小説としては肩肘張らなくていいし素直に楽しめるが、あまりに映像的に過ぎる。
(と、思ったら映画化が決まっているようですねえ。)

 

残念ながら、思ったほど「のぼう様」(成田長親)に魅力を感じる事ができませんでした。
肝心なところで心情的なものが掘り下げられていないので、少し肩透かし気味でした。
もっと大物なのかと思わせておきながらボーッとしていて、
何も考えてないようでいて誰もが考え付かない展開を読みきって行動する、という部分もあるのですが、
何かいまひとつ説明が物足りない感じで、そのあたりが惜しいなと思いました。

 

そんな掴みどころがないところが「のぼう様」の凄いところだ、
と言われればその通りなのですけど。。。



それよりも周辺のキャラクターたち、丹波、和泉、酒巻の三人が魅力的だった。
曲者ぞろいの武者たちがなぜか「のぼう様」には魅力を感じ、競い合いながら戦い、
同じように「のぼう様」を愛する百姓たちも三人のもと、一致団結する。
各キャラクターの痛快な戦いぶり、優しさは清々しく気持ちが良い。

 

また、石田三成の戦闘能力の無さが敗因の原因でもあったわけですが、
敵とはいえ強い者たちに対して向けられる三成の尊敬の念、態度は
やはり大物ぶりをみせつけ、お見事なのではないでしょうか。
大軍勢である三成は完全に悪者として扱かわれそうですが
そのように表現しなかったところが、この作品の読後感に影響したと思います。

 

結局、一番強いのは百姓かもしれませんね。



結論としては、期待していたものとは違って、かなり軽い小説でした(笑)。
スピード感もあり、単純で明快なのでサラッと読めて面白い娯楽小説だと思います。
脚本家出身の作者はこれが最初の小説らしいので、今後どんな作品を書いてくれるか
案外楽しみにしています。
映画化は楽しみです。誰が演じるのか楽しみだなあ。。。