吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

怖ろしい味 --勝見洋一

光文社Webサイトより引用
その鮨屋は、職人が一切顔を見せない不思議な店だった。
長い暖簾の奥の暗闇から、つるりとした白い手がのぞく。
そして供される鮨は、あまりにも見事なものだった――。(「鮨屋の怪」)
 練り上げられた文章が掬い上げる虚実皮膜の世界。
その筆にかかると、一杯の蕎麦が、一本の万年筆が、とたんに息吹を放ち始める。
途方もない蓄積と経験に裏打ちされた珠玉の20編。



美術鑑定家、料理評論家である勝見氏は代々続く古美術商の家に生まれ、
「本物」の中で育つことで培われた知識や鑑定力はもう口を挟むことができない。
フランスの「例のレストランガイドブック」の調査員をアルバイトでやっていたこともあるので
知識はタップリあるのだろうが、表現能力にもひきつけられる。
食を楽しんでいるのが伝わってくる。彼の周りにいる人たちもあまりに自分と別世界過ぎて、
ため息ばかり。

 

こんな勝見さんが「食彩」「物彩」と大きく分野をわけ、それぞれに味わい深い
ショートエッセイを綴っている。
薀蓄をくだくだと読まされるだけの内容を想像するだろうが、あきれるくらいの別世界ぶりに
嫌味のひとつも言う気になれない。
いや、これは褒め言葉で、あふれる教養と、世界を股に駆ける行動力、
本気で遊ぶその姿勢には恐れ入る。

 

そして特筆すべきはその文章力。
フィクションなのかノンフィクションなのか、エッセイというよりは
ミステリー小説でも読んでいるような気にさせる。
無論本当のことなのだろうが、現実感が伴わない。
よくあるグルメ本に興味のない人でも楽しめると思う。
ただ、「物彩」に関しては万年筆やライターなど道具のコレクションをしてしまいがちな
男性の方が楽しめそう。



20篇のうち印象に残ったのが以下の7編。

 

★「食彩」

 

 ・桜鯛の花見
   養殖モノと天然モノの違いをこんなふうに表現できるなんて。。。
   確かめたいけど先立つものが。。。

 

 ・恐ろしい味
   不味い、旨いの判断基準のこと、地域料理の味が出来上がるまでの考察には、なるほど。
   不味い味には意味がある?

 

 ・毛沢東のスープ
   料理ひとつとっても国の事情で見え隠れする政治の影が興味深い。

 

 ・笑う天麩羅蕎麦
   天麩羅蕎麦にのせる天麩羅にはこんな職人技が隠されていたのかあ。

 

 ・鮨屋の怪
   これを基にミステリー小説が書けるに違いない。誰か書いて欲しい。
   そしてこんな鮨屋に行ってみたい。



★「物彩」

 

 ・執事の偏愛
   ロンドンで出会った愛すべき執事のお話。もっと詳しく、長めの文章で読みたかった。

 

 ・カクテル・ピアノ
   ただの金持ちの道楽かい?と思っていたが、最後にホロリ。できすぎてる話しですけどね。



これだけじゃあちっともわからないですね(笑)
ゴメンナサイマシテ。

 

でも、どれも短い中に深い味のある文章です。
秋の夜に少しずつ味わうとおいしいかもしれません。