吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

ユージニア --恩田陸

「ねえ、あなたも最初に会った時に、犯人って分かるの?」こんな体験は初めてだが、俺は分かった。
犯人はいま、俺の目の前にいる、この人物だ――。
かつて街を悪夢で覆った、名家の大量毒殺事件。数十年を経て解き明かされてゆく、
遺された者たちの思い。
いったい誰がなぜ、無差別殺人を?見落とされた「真実」を証言する関係者たちは、
果たして真実を語っているのか?
日本推理作家協会賞受賞の傑作ミステリー!!



30年前に起きた大量殺人事件を、関係者が一人ずつリレーのように関わりを語りながら
事件の全体像をあぶりだすとともに、その証言の中から犯人像らしき人物が浮かび上がる。
そんな構成です。

 

で、他の方も言及されていますが、はっきりしない結末を迎えます。
覚悟はしていたので傷?は浅かったのですが(笑)ここまでとは。。。

 

最初は一人称の語りが頭に入ってきませんでした。話している人が誰だかわかりにくい。
徐々に誰が語っているかがわかるのですが、物語りの全体像を掴むまでに時間がかかる。
ところが、うっすらと全体像が掴めて来るとだんだん面白くなってくる。
恩田作品によく出てくるタイプの重要キャラクター、美しい少女や事件に関連する事が、
他の関係者によって語られることで徐々に不思議で不気味な雰囲気に引き込まれていく。

 

読み始めにのわかりにくさは別として、非常に共感するというかツボをついてくる表現が多かった。
章ごとに必ずと言ってもいいくらい、「そうそう」とか「なるほど」とか、
「うわ、すげえ」と思う表現がありました。
勿論個人的なツボですが人物描写の妙と併せて、恩田さんのそのセンスには素直に感服してしまいます。



恩田陸さん曰く、

 

世の中のグレーゾーンを書きたくない、人に対しても行為に対しても。
白黒なんて誰にもつけられない。
だから「絶対(ミステリー的に)はっきりさせてやるもんか」という意図でカタルシスがない話にした。

 

この恩田さんの語った内容は本書を読む前に読んでいたのですが、すっかり忘れていました。。。

 

このようなスタンスで書かれた作品なわけで、スッキリしないのは仕方がない。
絶対はっきりさせない、と作者が言い切るのですから(笑)
再読すると余計な事を考えないぶん、格段に楽しめ、好きな作品になるかもしれない、と、思います。

 

まあ現実はスッキリしないことばかりですから、案外これでいいのかもしれません。
そう思うことにしよう。

 

全てに結論を求めてはいけないのだ。