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辻政信の真実 失踪60年--伝説の作戦参謀の謎を追う

著者:前田啓介  
出版社: 小学館 


戦中の参謀として有名だが、評価が様々なのではっきりとした
人物像をよく知らないため、
厚めな新書を書店で見かけ、ちょうどいいかもと思い読んでみた。

炭焼きを生業とする家で生まれ、あまり恵まれた環境ではなかったものの
期待を一身に背負い、軍人としてエリートコースを歩み、頭角を現す。
疎ましく思う人も出るくらい、かなり個性が強い。
自分の考えに相当な自信があるのだろうし、
芯の強さが伝わってくる逸話が多い。

軍部としてはその優秀さを利用しつつ重宝したようだが、
上司といえどもやり込めてしまうのは組織的には
かなり扱いに困る存在でもあっただろう。
特に上下関係の厳しい軍隊だし、時代も時代にもかかわらず、
それらの壁を跳ね返すくらい優秀なのだろう。

戦争が終わるや戦犯になることから逃れ、
しばらく姿を隠していたが戦犯の期限が終わり
潜航時代や戦時に関する著書でベストセラーを出し、
結局政治家にまでなってしまうあたり、
バイタリティに溢れていることは間違いない。

参謀当時の行為や作戦判断をもって最悪の参謀だったと嫌う人も多いが
部下からは好かれていたようだし、地元でも評判はいいし
著者もバランスを取るスタンスでいたせいか、
結局人物像は定かではなかった印象を受ける。

議員のまま海外で行方不明となり現在に至るが
池田勇人が何らかの意図をもって辻を動かしていた可能性を示唆している。
今の日本の政治と違い、戦後の政治はまだまだ生々しかったのだろう。