吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

野性の呼び声 --ジャック・ロンドン

光文社Webサイトより引用
ゴールドラッシュに沸くカナダ・アラスカ国境地帯。ここでは犬橇が開拓者の唯一の通信手段だった。
大型犬バックは、数奇な運命のもと、この地で橇犬となる。
大雪原を駆け抜け、力が支配する世界で闘い、生きのびていくうちに、
やがてその血に眠っていたものが目覚めはじめるのだった。


この作品は小学校4~5年生のころに読んだ記憶がある。
子供向けにリライトされたものがあると訳者が書いているので、多分そのバージョンだろう。

それ以来、何度か思い出しては再読したいと思いつつ、積極的に読むためのアクションは
起こしてこなかった。
それが昨年、光文社古典新訳文庫の一冊としてこれが平積みされているのを見かけ、
声を上げそうになった。
しかし、すかさず買ったくせに積んであった。
そして今、もっと早く読んでおけばよかったと反省している。


子供の頃読んだものと違い、武骨で硬質な作品だが、それでいて読みやすい作品だった。
はっきり言って「犬が好きだから犬が出てくるかわいい作品が読みたい」という人には向かない。
ペットや同居人としての犬ではなく、当時としては至極当たり前なこととして
「道具としての犬」が描かれている。
擬人化されているので感情移入はしやすいが、犬(名前はバック)に向けられる暴力は容赦ない。
しかし、「かわいそう」という理由だけでこの作品を避けるのは非常にもったいない。
そもそも何をもってして「かわいそう」と判断するのだろうか。
この作品を読むと、そう思う。

生きていくことの過酷さ、残酷さ、そして生きる喜びが無駄なく表現されている。
信頼できる人間のため、そして自分の尊厳のために闘い、生きる「バック」の気高さにも感嘆するが
野性に目覚める「バック」の気持ちにも共感できる。
犬に教えられ、共感するというのも不思議な感覚だが、この作品を読む限り疑問にも思わない。


個人的には高校生の時や、20代後半の頃にこの本を再読したかった。
更に言えば、小学生の時にこの通常版を読めていたら良かったのにと思う。
勿論、今読んでも十分楽しめたし、むしろ丁度いいタイミングで読めたな、とも思っている。
なんだ、いつでもいいってことか。
自分の中で眠っていたモノが刺激され、揺り動かされた気分。


このブログの「好きな本」という書庫はあくまで個人的に思い入れがある本という意味なので、
「お奨めの本」というニュアンスは持っていない。
しかし、この作品は素直に多くの人に読んで欲しいと思った。
この作品を読んで共感できる人と組んで仕事をしたいな、とも思った。
大げさで偉そうな言い方をすれば、大事なものを忘れてしまった「日本人」に向かって言いたい。
「とにかく、読んでみろ」と。