吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

ホームタウン --小路幸也

「BOOK」データベースより引用
札幌の百貨店で働く行島征人へ妹の木実から近く結婚するという手紙が届いた。
両親が互いに殺し合った過去を持つ征人と木実は、家族を持つことを恐れていたにもかかわらず。
結婚を素直に喜ぶ征人。だが結婚直前、妹と婚約者が失踪する。
征人は二人を捜すため決して戻らなかった故郷に向かう…。
家族の絆を鮮烈に描く傑作青春ロードノベル。



ミステリーっぽいんですけど、家族の暖かさ、切なさ、意味を描いた作品でしょうか。
妹の失踪が始まりですが、ストーリーの深層部には子供の頃に兄妹が味わった悲惨な事件があります。
その体験が落とす影を紐解いていくことで失踪の理由がわかっていきます。

 

基本的に悪い人がでてきません。ヤクザは出てきますが、なんだかんででいい人たちです。
ほんのりと醸し出される暖かさを感じる事ができます。
空を見上げる古い歌を口ずさむ高く遠く空へ歌ううたで感じた雰囲気が
そのまま踏襲されつつ、子供の世界を中心に描いていた前2作と違い、大人の世界を描いています。
途中、パルプ町がさりげなく出てきたので前2作と関係が出てくるのかと思っちゃいましたが(笑)

 

ほの暗い雰囲気が漂ってもいるのですが、これは行島兄妹の心理状況がよく現れている結果だと
思います。
それとは逆に行島征人の下宿先のおばあちゃんと、その孫娘の里菜の存在が暖かい明るさと
心強さを感じさせます。

 

「どんな話しでも溜め込まずに話せ、全部墓場に持ってってやる」

 

と言ってくれるおばあさんの心の大きさ、優しさは
身近にこんな人がいてくれるといいなと素直に思わせてくれます。

 

この明暗のコントラストはうまいと思いました。

 

作品の終わり頃の関係者が集まる場面は、東京バンドワゴンを彷彿させます。
東京バンドワゴンの原点を垣間見る事ができて、読んで良かった作品でした。