吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

卒業 --重松清

「BOOK」データベースより引用
「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」ある日突然、十四年前に自ら命を絶った親友の娘が
僕を訪ねてきた。
中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた。
僕は彼女を死から引き離そうと、亡き親友との青春時代の思い出を語り始めたのだが―。
悲しみを乗り越え、新たな旅立ちを迎えるために、それぞれの「卒業」を経験する家族を描いた四編。
著者の新たなる原点。



前回の読書(ユニバーサル~)の印象を打ち消そうと、速攻で積んである本から選んだのが
この作品だったのですが、人間の死の取り上げ方のギャップが激しすぎです(苦笑)



「まゆみのマーチ」
 ガンに侵された母の死を目前にする40歳の男とその家族の悩みに、兄妹の子供の頃の回顧が交わる話し。
 物心ついてから歌で喜びを表現する妹の「まゆみ」は子供の頃、クラス内で浮く存在となる。
 授業中でも食事中でも気を抜くとつい口ずさむクセがあったから。
 それをいつも母親は「まゆみのマーチ」という二人だけの秘密の歌と共に庇い続けていた。
 兄妹はそんな思い出を語り合う。
 一方自分の家庭では、息子が高校受験に起因する「燃え尽き症候群」を患い、引きこもっている。

 

 徹底的に自分の子供を受け入れる母親の話をきっかけに自分を見つめ直し、後悔し、
 再生しようとする姿は自分にも思い当たる事があり、痛いところを衝かれている気がする。
 「流星ワゴン」と対をなす作品と本人も書いていたが、暖かく明るい兆しで終わる作品に
 「流星ワゴン」を読んだ時同様、「親の人生」に関しても考えさせられた。



あおげば尊し
 父親と同じ教師をしている男が自宅看護をしながら、果たして父の人生は幸せだったのだろうか、
 という疑問を持つ。
 そこに「死」に興味を持つ受け持ちクラスの子供が出入りし始めることで生じる葛藤を絡めた作品。
 クライマックスは予測できた直球だったが、人は死ぬ時にはじめて本当の評価がわかるのかもしれない。



「卒業」
 ある日主人公の男に、自殺した親友の娘(中学2年生)が会いに来た。
 その娘は、自分が母親のお腹にいるときに自殺した父親のことを知りたい、と言う。
 母親は別の人と再婚し、自分は学校でいじめにあっている。
 親子のかたち、友達との距離などを考えさせられる作品。
 死んだ親友の妻の再婚相手が、娘に対して展開する「思い出の総力戦」が微笑ましい。

 

 「自殺のモチーフは作者自身、最も大きな、これからも繰り返し挑む主題」と言っているが
 実際に友人が自殺した、とういう実体験を持つ重松さんとしては残された者の悲しみや痛みを
 多くの人に伝え続けて欲しいと思う。

 

 蛇足ですが、主人公が若い頃乗っていた中古のワゴン車に「流星号」と名づけていてニンマリ。



「追伸」
 子供の頃病死した母親の残したノートの扱いをきっかけに、新しい母親と、主人公との確執、葛藤、
 和解が描かれる。
 優しい母親の死後に、細かい事にこだわらない「がさつ」な母親が現れたとしたら。。。
 反発し続ける主人公は、いつまでもそれがひっかかる。
 振り上げた拳をいつ、どのタイミングで下げるのか・・・素直に表現できればいいのだが、
 なかなか難しいものだ。

 

 この作品は実際の話しをきっかけに「死にゆくひとは、のこされた家族になにを伝えるか」と
 自問したことで作られ、 そしてこれが「その日のまえに」につながったらしい。



いずれの作品も許すこと、許されることを題材に、過去からの卒業と新たな出発を描いています。
共感すると共に、自分もこのままじゃいけないなと改めて思いました。
(ただ重松作品を読むといつもそう思うのですが、なかなか思うようにできないのが情けない。。。)