吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

アラビアの夜の種族(上中下) --古川日出男

文庫版になって間もなく購入したのですが、今まで手を出せずにいました。躊躇の連続でした。
しかし、今年じっくり読む必読作品として浮かんでいた筆頭でもありました。
やはり古川作品の3巻分の文章というのは考えるだけで覚悟がいります。
そしてついに、じっくりと約10日間夜の種族となり、とても充実した読書を堪能できました。




世界観としてはRPGゲームで昔からよくある「剣と魔法」。
読んでいる最中、頭の中をハリーハウゼンの作り出す特撮世界が駆け巡ります。



ナポレオンによるエジプト攻略が進行するなか、エジプトの23人いる知事の中のひとり、
イスマーイール・ベイ(カイロで一番大きな個人図書館を所有している!)の側近であるアイユーブは
武力では敵わない事を悟り、読む者を破滅させる 「災厄(わざわい)の書」をナポレオンに
献上することを画策する。

 

アイユーブは、語り部ズームルッドの紡ぐ物語りを書き留める書家とその助手と共に、
口述される物語りに引き込まれていきます。

 

紡がれる物語りは大きく二つあり、いずれ絡まりあってくる。
アーダム、ファラー、サフィアーンの3人の主役と蛇神ジンニーアをはじめとし、
妖術師、盗賊、奴隷、商人、剣士など様々な人間や異形の者たちが地下に広がる迷宮を跳梁跋扈する
物語なのだ。
そしてナポレオンを破滅に導くべく物語が着々と準備されている最中にも、現実世界では
ナポレオン軍が確実にカイロに迫る。。。

 

ナポレオンの侵攻とアイユーブの計略、そしてその中で語られる物語との重層世界が構築されている
作りになっている。
読んでいる自分自身も引き込まれることで、重層世界はもう一層加わった気がする。



最後まで読むと、この作品には「ある仕掛け」が施されていることがわかる。
それがわかると途中ふざけている文章や、ん?と思う砕けた口調(特にサフィアーン)なども
全て作者の計算のうちなのではないか、と思う。
その理由が言えないところが苦しい(笑)



自分としてはこの作品を読んでよかったと思いますが、つまらない、と途中で投げ出す人もいると
思います。
読むにはエネルギーを要するし、どこまでこの世界を許容するのかによってこの作品の評価は
分かれそうです。
しかし、作者の物語を紡ぐ力量は半端ではないと思います。
この作品で更に古川さんの作品をできるだけ極めたいと思いました。
(古川さんの作品は何冊か積んであるのですが、この10日間でもう2冊積み足しました。。笑)
モチロン全てが合うとは限りませんが、100%合う事なんて考えられませんからね。






そうそう。折角ですからこの作品を読むか読まないか、ずっと迷っている人へ・・・

 

実は、本書にはその回答が書いてあるので引用します。これぐらいの引用は許されるでしょう。




「書物はそれと出あうべき人物のところに顕れるのではないでしょうか。

 

 書物じしんの意思で。」