吉祥読本

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危機の宰相 --沢木耕太郎

「BOOK」データベースより引用
1960年、安保後の騒然とした世情の中で首相になった池田勇人は、次の時代のテーマを経済成長に求める。
「所得倍増」。それは大蔵省で長く“敗者”だった池田と田村敏雄と下村治という三人の男たちの夢と志の結晶でもあった。
戦後最大のコピー「所得倍増」を巡り、政治と経済が激突するスリリングなドラマ。


学生の頃の印象では、池田勇人と言えば「所得倍増」をキャッチフレーズとし、
経済成長時の首相だったという事ぐらいでした。
20代前半の頃、政治の知識に疎く、まず日本の政治の過去を知ろうと思い、手軽に読める文庫本を見つけては読み始めました。
多分最初に手をつけたのが戸川猪佐武の「昭和の宰相」シリーズで、はじめて池田首相を掘り下げて知るきっかけとなりました。
勿論他の政治家の話と共に書かれているのでさほど詳しく書かれていたわけではないのですが、それ以来、政治だ経済だのもう少し掘り下げた本などを読むようになり、総合すると個人的には充分な情報量を得ていたと思います。
(しかし既にかなり情報が消滅してしまっているようです。。。汗)

しかし、本作のように池田首相をメインに据えた作品を読むと、今まで持っていた情報の質が全く違う事に気付かされます。
更に池田本人だけではなく、ブレーンである「田村敏雄」と「下村治」に関する情報を含めて読むと、池田の素顔が浮かび上がり、かつ、「所得倍増」というフレーズの出来上がるまでがわかり易い。
このあたり沢木耕太郎がよく調査している様がよく伝わってきます。

 

沢木は3人を「ルーザー(敗者)」という言葉で表現します。
共通してエリート街道からはずれ、病気で一旦レールからはずれた経験を持つからです。
沢木は他の作品にもあるように「敗者」という言葉にこだわっている気がします。
勝者に焦点をあてるのではなく、敗者の持つ影みたいなものに魅かれるのかもしれません。
ただし、本書でいう敗者は途中挫折した者(病気で出遅れ、レールから一旦外れた者)たちであり、結果的に勝利した者(首相の座を掴んだ者とブレーン)たちを描いているので悲哀みたいなものは感じられません。

 

池田勇人の評価は自分にはできませんが、この手の作品を読むと、つい現状と比較してしまいます。
所得倍増が池田や池田を支えたブレーンによる政策の勝利であるならば、現在の所得半減は、政策に目を向けず井の中の政争に明け暮れる政治家たちの敗北でしかないのでは?と思います。
確かに池田勇人の時代にも熾烈な権力闘争があったことは当然だと思います。
しかし同時に、多くの政治家にも目標達成意欲があった時代だったのではないでしょうか。
権力闘争(と言うかただの保身競争)に明け暮れる政治家が多い時代の何と不幸なことでしょう。
与党も野党もしっかりせい!と叫びたい。
下村のように青臭いと言われるくらいの理想を掲げるブレーンが今の時代、増えてくれるといいなと思います。
加えてもうひとつ。過去に学ぶことは、いつでも出来る。そう思わせてくれた一冊です。
一般人が、あの時代と時代背景を知る資料としては充分な本ではありますが、
別の角度から見た池田勇人や政治モノに関しても久々に読み耽りたいと思いました。