吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

猫の客 --平出隆

「BOOK」データベースより引用
はじめ“稲妻小路”の光の中に姿を現したその猫は、隣家の飼猫となった後、庭を通ってわが家を訪れるようになる。いとおしく愛くるしい小さな訪問客との交情。しかし別れは突然、理不尽な形で訪れる。崩壊しつつある世界の片隅での小さな命との出会いと別れを描きつくして木山捷平文学賞を受賞し、フランスでも大好評の傑作小説。


詩人の書いた小説を読んだ記憶があまりない。「ボン書店の幻」に導かれたか?
気分転換できて、サクッと読める作品が無いかと思って書店を彷徨っていたら、この本がありました。パラパラとめくったら行間が広く(笑)薄めなので入手しました。

 

ノラや」(内田百)や「アブサン物語」(村松友視)は、猫との悲喜こもごもが情感豊かに描かれ、感情移入タップリだったのですが、本作品は趣の違うものでした。

 

著者が詩人だからなのでしょう。簡潔でムダの無い文章、格調高いというか綺麗な文章で猫との交流が描かれています。
隣家で飼われはじめた猫が主人公夫婦の家に出入りを始めるのですが、出会いから悲しい別れまでを抑えた文章で表現します。
状況描写などは今まで読んだことがないような表現力で、素晴らしい(んだろうなあ)と思う反面、理解力に乏しい我が不明瞭な脳ミソには、状況が綺麗に浮かばない箇所が何箇所かあって焦りました。
もっと判りやすい説明プリーズ!と思うのですが読み返しても判らない表現は諦めました。
自分のヤボは仕方がありませんが、それでも猫と夫婦の間にあるそれぞれの距離感は理解できますし、格別猫が好きだったわけでもなかった夫婦が徐々に猫に魅かれて行く心の移ろいなどが淡々としている印象の中でもよく伝わってきました。
日々隣家から来る客人としての猫の描写も、猫好きの人には想像しやすいと思います。

 

ある日、一定のコミュニケーションが取れていたはずの猫がパッタリと来なくなります。理由は後日わかるのですが、お別れの悲しさ、隣人(本来の飼い主)との猫に対する温度差、嫉妬心などがワリと冷静に描かれています。
しかし、小説の体裁ではありますが、百先生や松村さん同様、きっとこれは著者本人の経験なんではないかなと感じさせるものでもあります。

 

フランスで評価されたとのことですが、「詩」的な分、評価されやすいのかもしれません。(適当な解釈です)

ただ、共感という点では人情味タップリの百先生や村松さんの作品のほうが好きです。同じ土俵で考えてはいけない作品なんでしょうけど。。。