吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

【新釈】走れメロス 他四篇 --森見登美彦

もっと早く読む予定だったのですが原典となる作品をいくつか読んでいなかったため、そちらを先に読んでました。
文庫ではないのですが・・・・先に進みたくて(笑)

 

山月記」 (中島敦
文章を書くためにストイックな生活を送る斉藤秀太郎は森見ワールドの王道といえるキャラクターです。
型破りでいて周りからは変わった人扱いだが常にプライドを持ち、自分を高める事に対しては真摯である。
ある日「もんどり もんどり」との言葉を残し姿を消すが、後輩の警察官、夏目が山で天狗と化した斉藤と出会う。。。
大文字焼きと斉藤の心情が印象的な作品です。好きだなあこの作品。
真面目に書き上げているのだが、大きな唾が飛んでくるのはイヤだ。糸をひく粘り気も(笑)

 

「藪の中」 (芥川龍之介
映画サークルの鵜山は恋人の長谷川と、その元彼氏だった友人の渡邊の二人を主演に映画を撮影した。
その「屋上」という作品にかかわったサークルの仲間や監督、主演者たちのそれぞれ違う視点が何を物語るのか。まんま藪の中。恩田陸の「ユージニア」みたい。


走れメロス」 (太宰治
間違いなく本作で一番面白かった作品です。「夜は短し恋せよ乙女」とか「四畳半神話大系」とのリンクが嬉しい。この2作品を事前に読んでいるとより一層楽しめます。
あの「詭弁論部」に所属する芽野、芹名の森見作品らしい行動には細かいところで笑ってしまう。
猫ラーメンならぬ猫炒飯が出てくるが、こんなメニューあったっけ?
よくもまあこの作品を完全な森見ワールドに仕上げたものだと感心しきり。

 

桜の森の満開の下」 (坂口安吾
小説家を志し、斉藤秀太郎を尊敬する男がある女性と出会う。その女性の言われるままに小説を書くことで生活が好転しはじめる。しかし、暮らし向きは良くなっていくのにいつも疑問が涌いてくる男。
この成功は彼女の夢であって、自分の夢ではないのではないか?・・・
桜並木が印象的な、静謐でいて坂口安吾の世界を器用に森見ワールドに変換できているのではないでしょうか。
原作が血なまぐさいので、かなり綺麗に仕上がっています。

 

「百物語」 (森鴎外
「きつねのはなし」に繋がるような雰囲気のホラーめいた作品だが、さほど怖い話しでもない。
原作も決して怖くないし、まして何も起きないことを考えれば、少しだけドタバタあって少しだけホラーっぽいこの作品の方が楽しめる。
珍しく登場人物に「森見」の名前が出てきたのは意外でした。。

 

日本文学を題材に、五編それぞれにちょっとしたリンクがあり、更に「夜は短し~」「四畳半~」とのリンクも楽しめるという仕掛けをサラリとやっているのはお見事だと思います。
今回読んで思ったのは森見さんには明らかに強固な世界観(妄想?)があって、その世界の中に色んな作品の登場人物たちがきちんと息づいており、それらを全て神様のような視点で見ているのかもしれない。
常日頃その世界を愛でているとしたら、文学作品を「彼ら」の逸話に無理なく応用する、なんてことはお茶の子さいさいなのかも。(表現が古いな)
他の作品でもコラボってほしいものである。
走れメロス」の面白さはストレートな森見ワールドだったが、違う味付けのモリミワールドの「山月記」「桜の森の満開の下」で今後の森見作品への期待度をより大きく持ちました。
スピードを上げたいと思います。