吉祥読本

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玩具修理者 --小林泰三

短編の「玩具修理者」と中編の「酔歩する男」の二編です。
第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。

 

ある夏の日。喫茶店の中での二人の男女の会話。
女は七つか八つの頃のできごとを男に語っている。
「ようぐそうとほうとふ」という名前を持ち、無料で子供たちの持ち込むおもちゃを何でも修理してくれる玩具修理者は、大人たちには秘密の存在だった。
ある日、彼女は弟の道雄に大怪我をさせてしまい、親に叱られたくない一心で玩具修理者のもとに道雄を運び込むのだが。。。
物語は二人の会話ですすみますが、途中グロい描写があります。
そのあたりが駄目な人にはお奨めできませんが、面白い作品でした。

 

会話を引用します。
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「その時計には生命がなくて、人間には生命があるとどうして言いきれるの?
 時計に生命があって、人間に生命がないかもしれないじゃないの」
「話しにならないよ。子供でもわかる、そんなこと」
「じゃあ、教えて。生命って、何? 生きているってどういうこと?」
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この会話でディックの「アンドロイド~」をはじめとする人間のアイデンティティーを問うような作品群と同類のテーマを感じました。
結末は予測できたのですが、最後のページの締め方は秀逸でした。
ホラー大賞短編賞受賞するだけの事はありますね。


「酔歩する男」

血沼壮士(ちぬ そうじ)は喫茶店で小竹田丈夫(しのだ たけお)という見知らぬ男から声をかけられる。しかし、小竹田は大学時代の親友だと語る。
全く身に覚えのないが、とにかく気になって彼から話しを聞き出そうとする。
どうやら大学で同級生だった二人は兎原手児奈(うない てこな)という一人の女性を
取り合っていたのだが彼女は不慮の死を迎えてしまう。
小竹田が語るその後の話は果たして妄想なのか現実なのか?(しかしこの名前、難しいっす!)

 

波動関数をはじめとする理系な会話は理解を超えているので早々と諦めましたが、この作品も面白いですね。
半分を過ぎた頃からは、頭がグルグルしてきたのでかなりゆっくりとしたペースで読んでました。
ホラーというよりSFっぽいです。タイムトラベルのような設定で「時をかけるオッサン」という感じでしょうか。頭の中には勿論、原田知世の声が響き渡ります(笑)
時間の連続性の欠如が生み出す恐怖は、ホラーで受ける怖さとは違い、気持ちの悪い浮遊感を伴います。
話しの流れに齟齬を感じる事もあるのですが、それこそパラドックスってやつですからね。
突き詰めるのはある程度までにして物語を楽しむことに専念するほうがいいようです。
この作品の締め方も好きです。


「酔歩する男」の終盤を読んでいる時、なんとも言えない頭痛がしていました。
読み終わって間もなく、その頭痛がなくなっていたことに気付いたのですが、知恵熱でも出たか?熱はでてないけど(笑)