吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

不祥事 --池井戸潤

事務処理に問題を抱える支店を訪れて指導し解決に導く、臨店指導。
若くしてその大役に抜擢された花咲舞は、銀行内部の不正を見て見ぬふりなどできないタイプ。
独特の慣習と歪んだ企業倫理に支配された銀行を「浄化」すべく、
舞は今日も悪辣な支店長を、自己保身しか考えぬダメ行員を、叱り飛ばす!張り飛ばす。
(「BOOK」データベースより引用)



東京第一銀行の事務部事務管理グループ調査役・相馬健と部下の花咲舞のコンビが銀行内部で起こる
様々な問題を次々と解決していく、8編からなる連作短編。
池井戸作品ではじめて読む女性キャラクターが主人公です。

 

「相手が支店長以上になるとてんで意気地がなくなる」上司の相馬から
「”狂”咲 舞」とあだ名されるほど強烈なキャラクターである花咲舞の
対称的ながら息の合ったコンビぶりが面白い。

 

曲がった事が大嫌いな花咲舞は、相手が上司だろうが支店長だろうが取引先であろうが
物怖じせずまっすぐに思ったことをぶつけるため、多くの上司に疎んじられる。
場合によっては殴ることもあるので、読んでいるだけでストレス解消になるかも。
しかし、とてつもない事務処理能力の持ち主であり、細かいところにも気が付くため
ほとんどの問題を解決してしまうスーパーウーマンなのだ。
一方、花咲舞にはタメ口で扱われ、デキの悪い上司のように見えて実はダメなままとか、
決めるところはキッチリ決め、実は敏腕?なところをチラリと見せる相馬ものらりくらりと
良い味を出している。

 

いつもの池井戸作品らしく、銀行内で大きな力を誇示する敵役(頭取候補のひとりである真藤)がおり、
その派閥構成員がいる支店に、臨店指導というかたちでコンビが出向くわけだが、どの話しもテンポがよく、
小気味よい展開でスッとする。
正義は必ず勝つ、的な展開のなかにも銀行内部の抱える一筋縄では語れない数々の問題や
人間関係や最前線で働く行員たちの心の機微も簡潔に描かれ、銀行内部を知らなくても
読み手の気持ちにスッと入り込んでくる。

 

また、銀行の窓口に来るお客さんや取引先とのやりとりも見もので、多分本当に色んな客が
いるんだろうなあ、と特にテラー(窓口係)の女性行員には同情してしまう。

 

表題でもある「不祥事」の顛末は簡単にわかってしまうのでミステリーとしての手ごたえは
低いかもしれないが細かい事は気にしてはいけません。
切れ味がよく、爽快感のともなう作品でしたので、このコンビ、是非シリーズ化を!