吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

有頂天家族 --森見登美彦

宵山万華鏡の前に読みたかったのですが、ようやく古書店で見つけることができました。



そうか、京都は人間と狸と天狗が三つ巴で生きている場所だったのか。
今までの森見作品のいろんな謎は、この作品で解決した気がする。
他の作品で不思議な能力?を発揮している連中がみんな狸か天狗だったら納得できる。
妄想の産物だと思っていた偽叡山電車も狸の化けたものだったら、すべて解決するじゃありませんか。
え?違う?



狸が主役の本作の世界は、ジブリ作品「平成狸合戦ポンポコ」を思い浮かべるとわかり易い。
狸界を二分する下鴨一族と夷川一族の阿呆らしい覇権争いと、それをとりまく怪しい人物たちや天狗たちの
とぼけた暗躍が描かれているが、森見ワールド全開であることは間違いない。
全篇を通してニヤニヤしてしまうシーンが散りばめられ、なおかつ数々の切なさを感じさせ、
読後感はとても暖かい気持ちにさせてくれる良作である。

 

個人的に高杉晋作ファンとしては辞世の句「おもしろき こともなき世を おもしろく」は座右の銘みたいなもの。
その高杉晋作ばりの破天荒さを持つ下鴨一族の三男、下鴨矢三郎が本作の主人公。
むやみやたらと化けることを楽しむ放蕩息子だが、その他の兄弟も含めそれぞれに味があってよい。
頭の固い長男、まさしく井の中の蛙となり狸界から距離を置く次兄、愛らしい弱虫の四男の兄弟愛と
共通して持ち合わせている父親譲りの阿呆っぷりには泣けるやら笑えるやら。
個人的には「息をするのも面倒くさい」という超面倒くさがりの次兄、矢二郎にニヤリ。
その昔、そんなセリフを吐いたことがある自分の姿を見るようだ。

 

対する夷川一族の金閣銀閣兄弟のとぼけた悪役ぶりも憎めない面白さである。
ずれた四字熟語の濫用は、普段の会話で使えるのではないかと心に留めておく。
そういや20歳位の若人に「難しい言葉使いますよね。四字熟語が多い感じっス」と指摘されたことがあるなあ。
もしかしてオラは銅閣か?
話が逸れた。
それにしても、あの偽電気ブランを作っているのは夷川早雲率いる夷川一族だったなんて!
恐るべし狸たち!ぜひ、分けてくれ!

 

その他、四兄弟の師匠である赤玉ポートワイン好きな天狗の赤玉先生、
妖しい力と魅力を兼ね備えた弁天、狸の天敵である金曜倶楽部の面々、
詭弁論部出身の淀川教授など多彩かつ魅力的な登場人物たちもそれぞれ森見ワールドの「誰か」を
彷彿させ楽しませてくれる。
最後まで姿を現さない奥ゆかしい?海星の存在も印象的だ。
それにしても「赤玉ポートワイン」とは懐かしい。久しぶりに飲みたいものだ。
そういや「赤玉パンチ」ってのもあったな。男は飲ませてもらえないんだけど。



すべての人間に「阿呆の血」が流れていたら、きっと世界は平和になるに違いない。
家族愛溢れる狸ワールドにどっぷりと浸れてよかったな~と、思わず「ぽん」と腹鼓を打ちたくなる作品でした。

 

やってみたら本当にいい音が出た。ここにも狸がいたぞ・・・