吉祥読本

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雷の季節の終わりに --恒川光太郎

いいですね、この世界観。
地図に載っていない「穏(おん)」というエリアは外の世界からは見ることができない。
穏には春夏秋冬以外に神の季節である「雷季」という二週間ほどの季節が冬と春の間にある。
雷季になると穏に住む人々は家に閉じこもり、外は風と雷鳴が支配し、鬼が歩き回る。

 

この設定を違和感ない妖しさで描いている恒川さんの構築力は素晴らしい。
突拍子もない設定に思えるかもしれないが自然に映像がイメージでき、
昔はこんなことが普通にあったのではないかとさえ思う。
ただ昔の話ではなく現代であり、しっかり世界がリンクしている点も面白い。

 

前半は穏の世界で暮らす賢也の目線で穏の閉塞感、風習や出来事が淡々と語られる。
同級生の穂高やその兄、ナギヒサやその友人たちのこと、自分の置かれている状況、
失踪した姉のこと、穏と墓町で闇番をしている男との交流、そして何よりも賢也に憑いている
「風わいわい」という目に見えない風の鳥との関係など興味が尽きない。

 

やむなく穏を出ることになった賢也、外界である「現代」にいる茜、
穏の鬼衆であり不死身の男トバムネキの目線で語られる展開がどのように収束していくのかが
見えなかったが、わかってみると「そう来たか!」と納得。

 

多くの殺人が行われ、人の心の闇部分の描写には気が滅入ることもあったが、
静かに淡々と語られるためか嫌悪感みたいなものを抱くほどのことはありませんでした。
敢えて言えば、ナギヒサの抱える闇をもう少し掘り下げて描いて欲しかった。
その他の人物の心理描写は申し分ないと思いましたが、ナギヒサの役回りを考えると
物足りない気がします。
その分、外界でのトバムネキの部分をもう少し減らすとバランスがとれたのではないかと。

 

文庫化にあたって一章追加されたらしいが、どの部分なのか忘れないうちに単行本の確認もしたい。



「部屋の静寂が少しうるさい。」
こんな描写にドキリとしました。