吉祥読本

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パイド・パイパー --ネビル・シュート

フランスの田舎道でパンクのため立ち往生したバスは、ドイツ軍の編隊の機銃掃射を受けて動けなくなった。これから先は歩いてもらわにゃあ―。
老イギリス人は、やむなくむずかる子供たちの手を引いた。故国を目差して…!戦火広がるフランスを、機知と人間の善意を頼りに、徒手空拳の身でひたすらイギリス目差して進む老人と子供たち。英国冒険小説界の雄が贈る感動の一編。
(「BOOK」データベースより引用)

 

渚にて」の感想でも書いたが、これまた淡々とした作品だ。
舞台は第二次世界大戦中のフランス。フランスでで休暇を楽しんでいたイギリスの老紳士が
ひょんなことから子供を託され、
イギリスに帰るまでの行程を描いている。簡単に書いてしまえばそれだけの話だ。
ドイツ軍の侵攻はめざましく、フランスが徐々に追い詰められるなか、イギリスへ向かう老人と子供も
思うように進めずにいた。
老人一人であればなんとかなるものも、子供が二人もいればままならない。
子供は大人の事情などおかまいなしにお腹をすかし、興味のまま行動する。
元弁護士の老人ハワードは根気良く二人をなだめすかし、決して怒ることなく先を急ぐ。
子供に対するこの根気はイギリス紳士の真骨頂であろう。
列車での移動はおろか、寝る場所にまで事欠くなか、ハワードは次々と子供たちを預かることになる。
預ける大人たちもそれぞれ事情があるとはいえ、無責任のようにも見える。が、戦時下である。
せめて子供だけでも安全な場所へ、と思うがゆえの選択は万国共通で最善なものなのかもしれない。
イギリス人、フランス人、オランダ人、ユダヤ人、ドイツ人の子供を連れる老人の姿を思い浮かべると
空恐ろしい自体であるが、飄々と受け入れている老人の気概はユーモラスですらある。
(正確には猫も一匹いるのだが・・・)

 

淡々とそして確実に子供の人数が増えれば、当然敵国であるドイツ軍に見つかる可能性も高くなる。
ドイツ軍もただの老人と子供の難民であれば国の体面上、優しくしてくれるがイギリス人の場合は別である。
緊迫感がなく、英語を話したがる子供たちの行動は大人の読み手をハラハラさせるには充分である。
この静かなハラハラ感が淡々とした作品にもかかわらずサクサクと読ませてしまうのだ。

 

それにしても老紳士の一本筋の通った態度と徹底した忍耐力には頭がさがる。
子供に対する思いに国境はない。
映画「大脱走」のようなアクションモノでもなく、派手なところが全くない作品ながら読後感は
未来にほのかに明るさを持つ事ができる、ほんのり気持ちのいいものだった。



ところで「パイド・パイパー」とは「ハーメルンの笛吹き男」の名前らしい。
ハーメルンの笛吹き男」の概要は知っていたが、名前までは知らなかった。
なるほど、と思える題名だ。

 

できることなら、地図があるとより楽しめたのではないかと思う。