吉祥読本

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風が強く吹いている --三浦しをん

ここまでやるかってくらいのストレートな青春群像ストーリーでした。
正月を酒浸りで過ごすため、箱根駅伝の中継は大抵見ていません。
見てもボーッとテレビ画面を見ているだけで内容は把握していないことがほとんどです。

 

簡単に言ってしまえば寛政大学の学生たちが住んでいるアパート「竹青荘」の個性豊かな住人たちが、
箱根駅伝」へ出場しようとする無謀な話しだ。
アパートを仕切る「ハイジ」の深謀遠慮に嵌められた住人たちのチャレンジは
ほとんどが陸上経験が無いにもかかわらず1年の猶予しかない。
箱根駅伝」の知識がなくてもこの話が荒唐無稽であることは明らかだ。

 

箱根駅伝の10区各コースの適性に合わせて10人のキャラは構成されたのだろう。
参加に至る経緯も、駅伝のカリスマであり僧侶のようなストイックさを持つ六道大の藤岡の存在も、
敵対する東体大の榊との確執も、ありがちなシンプルさで徹底している。
(余談だが、藤岡は松本大洋のマンガ「ピンポン」に出てきたドラゴンを彷彿させる)
とんとん拍子にコトが運ぶ前半は、あまりにも都合が良い。
しかしだ。
どんなに努力したところで全くの素人が駅伝のトップレースに簡単に出られないのは
読者以上に作者自身が理解しているだろう。
そのうえでド直球で押し通す作者の姿勢は潔い。

 

後半の駅伝の場面はそれだけでも長い。これだけで分冊できそうだ。
(余談だが、最近の文庫は文字を大きくして分冊することが多く、割高感がある。
 なので600ページ越えのこの作品を一冊に収めてくれたのはうれしい。)
しかし、この駅伝シーンはぐっとくるシーンがいくつもあり長さを感じない。

 

各メンバー毎に走っている最中に考えていることが描かれているわけだが、いちいち泣かせる。
走っている最中は一人である。だが、襷を渡すことでみんなの心が繋がり、
全員で同時に走っているかのような連帯感は、多分経験した者しかわからないはずなのだが
読んでいる自分も一緒に走っている気にさせてくれる。
走ることで友情が育まれ、信頼し、そして走りながら彼らは確実に成長している。
なんて爽快なんだろう。
こうであってほしい、ということが恥ずかしげも無く提示され続けているのに
展開も結果もほぼ予測がつくくらいベタなのに、とても気持ちよく、元気をもらえた。

 

ところで一番のお気に入りキャラはなんと言ってもニコチャンだ。(少数派でしょうが 笑)
留年して一番年上のヘビースモーカーで数少ない陸上経験者。
親近感わきまくりのキャラである。走っている最中に彼の頭の中をめぐる思いには共感できた。
ちなみに一番笑ったニコチャンの台詞は
「俺のことはペーターと・・・」



小涌園近辺をはじめ、あの辺りは何度か歩き回ったことがある。歩きでもかなりきつい坂ばかりだ。
よくあんな道を走れるものだと、ため息しきりである。
次の正月、箱根駅伝をテレビで見ることができたら正座して見ようと思う(無理無理)