吉祥読本

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赤朽葉家の伝説 ::桜庭一樹

ようやく出た文庫版。我慢に我慢を重ね、ようやく読めました。

 

今更説明する必要も無いでしょうが、「辺境の人」に置き去られ、後に「千里眼奥様」と呼ばれる万葉、万葉の娘で暴走族上がりで売れっ子漫画家となる毛鞠、そして毛鞠の娘であり平凡に生きる瞳子の三代にわたる赤朽葉家クロニクルです。

 

期待が大きすぎたのかもしれない。いや、面白かったしグイグイと引き込まれた反面、
淡々と読み進めておりました。
特に第二部は自分と時代がほぼ完璧にシンクロしているため、懐かしさと共に読んでいました。
しかしどこか醒めていたのはなぜだろう。
時代背景の説明が簡潔に、そして違和感無く本文に融合していた事を考えると、
物語全体が簡潔すぎたのかもしれない。
普段は長いと文句を言うくせに、この作品に関してはもっと書き込んで欲しかった。
二~三分冊くらいにして描きこんでくれたらもっとこの世界観にのめりこめたのに、と思う。
特に最も魅力的な第一部をより充実させて赤朽葉タツの生い立ちにもう少し触れてほしかった。
タツという人物がそれだけ魅力的に感じたからだし、赤朽葉家の未来を長期間コントロールするに至った人物の成り立ちを知りたかった。
まあ、行間を読み取れと言われれば返す言葉は無く、簡潔で読み易かったことも確かなのですが。

 

この物語の骨子は女三代の人生を描いているが、裏クロニクルとして時代が男に求める役割の変遷も描かれている。時代に合わせて選択される男が変わっていき、ある意味男の悲哀を女性視点で優しく包み込むように描いていると思った。
創造する男、変化を拒否する男、発展させる男、安定させる男、変化させる男などなど
個性的な女性陣の描き方は面白かったが、男性を描く桜庭一樹の目線も面白かった。
だからキャラクター造詣に関しては文句はありません。
それぞれの時代の主役がきっちりと自分の役割を演じ、綺麗にバトンタッチしていったし、「出目金」こと黒菱みどりや製鉄所職工の豊寿、毛鞠の親友チョーコ、万葉を育てた多田夫婦とその末裔たち、それから毛鞠にだけ見えない百夜など、いずれも無駄のない人物たちが脇を固めている印象でした。



文庫本の特権としてあとがきから。
担当編集者に初期の代表作を書いて欲しいと言われ、
個人、家族、国の歴史、恋愛、労働を全て詰めこんだ全体小説を書き上げたらしい。
イメージしていたのはジーン・ウルフの「ケルベロス第五の首」とのこと。
うぅぅ、鳥肌がたちました。
実は次に「ケルベロス第五の首」を読もうとしていたときに「赤朽葉家~」の文庫が発売されたので先に読んでしまったが、こんな関連があったとは。。。
結局タイミングを失って次も別作品を読んでしまいましたが、ようやく現在読書中です。


神話の時代から現代までの流れを淀みなく描ききってくれて楽しめた反面、もう少しできたはずだ、と物足りなさを指摘するのは贅沢というものでしょうか。
あまり褒めてない印象を与えているかもしれませんが、今までの桜庭作品の中では一番面白かったことは確かです。捻くれてる愛情だと思っていただければ幸いです。
数年後にはこれを越える作品を書き上げて欲しいと思いますし、きっとできると信じています。