吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

エスケイプ/アブセント --絲山秋子

闘争と潜伏にあけくれ、20年を棒に振った「おれ」。だが人生は、まだたっぷりと残っている。
旅先の京都で始まった、長屋の教会での居候暮らし。あやしげな西洋坊主バンジャマンと、
遅れすぎた活動家だった「おれ」。そして不在の「あいつ」。あきらめを、祈りにかえて生きるのだ。
―いつわりと挫折の日々にこそ宿る人生の真実を描く傑作小説。
(「BOOK」データベースより引用)



なんと読みやすく短い作品か。しかし、意外と深いかもしれない?と思わせる余韻である。
ある男の転機が訪れた頃の生活の一部を切り出したような作品だし、切り出しただけ、
とも言えるくらい淡々ともしている。
それでいていつもの絲山さんらしいヤサグレ感もあって、情けないけど憎めないキャラの主人公。
かなりの部分が主人公の独白であり、時代遅れの活動家のため息、重荷から逃れることができた男の
安堵も感じられる。
力が抜けたキャラはおよそ活動家のイメージからかけ離れている。

 

「自由を勝ち取ろうなんてのをやめた瞬間自由になっちまった」
ようやく気付いたのが40代になってから。
人生なんてそんなもんかも。ままならんよね。
京都の地で彼が短期の居候をする先はコスプレ神父と言われる怪しい外人で、こいつが飄々としている。
ある時は神父、あるときは外人相手に土産物屋をやっていたりする。しかし不思議なことにこいつも憎めない。

 

遅れてきた活動家曰く、

 

「神さまよ、人の罪なんか聞くより、むしろ応援しろよ。あんたの作った人類のこととかをよ。
 もちろん、おれのこともよ。つうか、あんたって会社で言ったら社長みたいなもんじゃねーの?
 だとしたらおれたちの罪みんなまとめてあんたの責任でもあるわけじゃん。
 そうは言っても人類なんて手にあまるだろ。だったら祈れよ。あんたこそ祈れ。祈り続けろ」

 

毎年正月に神社で祈祷してもらっててなんだけど(笑)、このセリフには心の中で「そうだ!祈れ!」と
叫んでしまった。神様だって大人数で押し寄せる勝手な人間たちの願いを全部聞き入れられるわけないんだから祈るしかないわな。「全部の願いよ叶ってくれ!」てね。

 

読んでて居心地の良さみたいなものを感じた。嫌いじゃないんだな、きっと。
この適当なフワフワ感みたいなの。