吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

月の骨 --ジョナサン・キャロル

あたしはとっても幸せ。この世でいちばんすてきな旦那さまがいるし、おなかには二人の赤ちゃんも。
でも最近、変な夢を見はじめた。ロンデュア、これが夢の世界の名前。
あたしとあたしの息子のペプシは、五本の月の骨を探すためにその世界に帰ってきたのだ。
やがて夢が現実に、そして現実が夢に少しずつ忍びこみはじめたとき…衝撃の傑作。
(「BOOK」データベースより引用)



いきなり「まさかり少年」の登場である。おお、期待できるじゃないか!
と思っていたらすぐにカレンとダニイの結婚までの流れが語られ、ちょっと忍耐タイム。
死者の書」も導入部は長かったし、ガマンガマン。
色々な事情があったとはいえ、カレンの心理のゆらぎ具合が正直心地よくない。
いたたまれない、とでもいうのだろうか。
そしてこの心理状態が、後の核心部分にもにつながっていくことになるのだ。
二人は結婚し、メイが産まれ、エリオットという親友ができた頃から話しが面白くなってくる。
カレンのよき理解者、エリオットというのが魅力的なキャラで、ボン・クレー同様(笑)
この手のキャラはある意味男前が多いですね。
あちしもこんな友達が欲しいものだ。シャングリ・ラのモモコとかもね。ちょいと脱線。

 

読み進める内に現実の世界と夢の世界が徐々に交錯しはじめる。
カレンは自分の夢の中でに現れるロンデュアという世界で、「ペプシ」というカレンの息子に会い、
「ミスター・トレイシー」と名乗る黒い帽子を被った犬、「フェリーナ」と呼ばれる狼、
そして駱駝の「マーシオ」らと共に、5つの「月の骨」を探すのだ。

 

決して楽しい夢ではないが、連続して見る夢が現実にも影響を与えている兆候を感じ
カレンの不安感は増大していく。
そして驚きの展開と切なさに満ちた一気呵成のラストは秀逸。
木の鼠の歌を読み返したときに、なぜかジンとした。



読んでいる間、特に終盤に差し掛かると、自分の子供の頃見た怖かったり楽しかったり
ワケが分からなかったり悲しかったりの雑多な夢を思い浮かべた。
ほとんどは忘れているはずだが、それらが心の隙に忍び込んでくるとしたら、
それは果たしてどんな心理状態の時なんだろう。
読後、余韻に浸りながらそう考えたとき、この作品の核心らしきものが時間差でドワッと
押し寄せてきた気がした。
あまりに個人的なことでその説明は難しいし、説明をする気はないし、ましてや書き残すことではない。
カレンのようにひとつ成長するためには、忘れてはいけないことと、忘れてもいいことがあるのだから。