吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

世界の中心で愛を叫んだけもの --ハーラン・エリスン

「百年の誤読」で豊崎先生が例の「セカチュー」を叩いた時にこの作品を読まねばと思い、
速攻で積んでおいたのですが読んで大正解。
まったく意図しなかったものの、ディックの「流れよ我が涙、と警官は言った」を読んだあとに
この作品をセレクトしたために図らずも「愛」の描き方の比較を楽しめた。
いろんな「愛」があるんですねえ。
短編集なので正しい比較ではありませんが、「流れよ~」よりこちらの作品のほうが好きです。

 

様々なタイプの作品が揃っており、アイデアの品評会のようだ。
共通して言えるのはいい意味で過激でクレイジー。しかし、歯切れがあって面白い。
残酷であって美しい。そんな印象である。
多分、これは読者を選ぶと思うが、刺激のある読書体験であることは確か。

 

全部の感想は大変なので急ぎ足で印象に残った作品だけ取り上げます。

 

・まえがき
 作品ではないが、何よりも作者自身のまえがきが長い。そして挑戦的である。
 とんがってる感じは嫌いじゃない。
 悪ガキっぽさ出まくりの「まえがき」を許せるならば、作品群も気に入るのではないでしょうか。

 

世界の中心で愛を叫んだけもの
 読んでいていきなり世界観が理解しきれず、戻っては読み戻っては読みを繰り返した。
 が、わかってみると面白い!読んでいると「百億の昼と千億の夜」とか「アラビアの夜の種族」を
 思い浮かべてしまった。
 勿論これらの作品とは違うが、短いながら壮大さとか深さとか印象が重なるところを感じた。
 狂気と暴力の世界から最後は・・・愛だねえ?

 

・「101号線の決闘」はハイウェイでの自動車同士の闘いという比較的わかりやすいガチャガチャした
 作品だが、 連鎖するヴァイオレンスは映像的に感じた。
 作者が有名なテレビドラマなどの脚本も手がけているのも頷けます。

 

・星ぼしへの脱出
 ディラードという星に住む地球人たちを、ある日キバ星の大艦隊が襲い始める。
 タラントという男は生き残っている地球人の手によって手術され「歩く爆弾」となってしまう。
 地球人が逃げ切るための囮として利用されるタラントのラストは「ニヤリ」。
 目には目を、ってことで。

 

・少年と犬
 第三次世界大戦後に荒廃した街で犬と共に生きている少年は、いわゆる「ごろつき」(笑)だ。
 連れている犬は超能力を持っていて、実は犬のほうがこの少年の親代わりである。
 極端に少なくなった女と出会い、女の住む落ち着いた世界に向かうが・・・
 超能力を持つ犬と少年のやりとりが楽しく、ラストの切れ味は素晴らしい。

 

他にも「聞いていますか?」「殺戮すべき多くの世界」などもちょっと目先の違うストーリーを楽しめました。
「満員御礼」は星新一作品にもあるようなオチで、軽いブラックさがよかったです。
全体的に好きな作品が多かったので、他の作品も読めるといいんですが。。。
どなたか邦訳してくれませんかねえ。