吉祥読本

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流れよ我が涙、と警官は言った --フィリップ・K・ディック

最近、新装版がでましたね。サンリオSF文庫を積んであったのですが。。。読み遅れました。



何もかもが管理された世界。テレビの大スターだったジェイスン・タヴァナーは、ある日突然

 

自分の存在を証明するものが全く無い、「存在しない」存在となってしまっていることに気付いた。

 

自分の存在を示すIDを偽造したタヴァナーは、警察本部長のフェリックス・バックマンに追われる事となる。

 

暗く陰鬱な雰囲気が全体を覆う作品だが、当時のディックの心象風景がそのままなのだろう。




自分が存在しないことの不安はいかばかりであろう。

 

管理されたくない反面、管理されないとそれはそれで不安を感じるなんて矛盾しているが、

 

理解できる気もする。

 

ディックはタヴァナーがどんな存在なのか、スイックスとは何か、どんな社会なのか説明をあまり

 

明確にしないため、タヴァナー同様、ポンと投げ出された気分で読んでいて居心地が悪い。

 

ちなみにスイックスを簡単に説明すると、遺伝子組み換えを行って改良された人間らしいので、

 

アンドロイドみたいなものかもしれません。

 

前半はタヴァナー目線で語られるが、後半に向けて警察本部長のバックマンの目線で語られる。

 

おかげで状況がだいぶわかってくるが、ストーリーの主眼は変わってくる。

 

タヴァナーの身に起きたことよりも、それを起点に愛について考察し、涙を流すバックマンの話しへと

 

転換していくのだ。題名はここから来ているってことですね。

 

着地点が変わったのではなく、ディックの中の心象風景なのだ。その表現をするためには二人の目線が

 

必要だったのでしょう。

 

不安に駆られ、自分の存在に疑問を覚え、人との繋がりを求め、失った愛に涙し、

 

それでも愛を求めるしかない姿はとても切なく痛々しい。



ディック自身を知るには読んでおいて損はない作品ではないでしょうか。