吉祥読本

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私はフェルメール ::フランク・ウイン

ナチスに協力した売国奴か、一泡吹かせたヒーローか。歴史上最も有名な贋作者の一人となった
ファン・メーヘレンの栄光と挫折の生涯が、膨大な資料を踏まえ、スピードとスリルに満ちた文体で甦る。
(「BOOK」データベースより引用)


美術史上最も有名な贋作者の生涯を追ったノンフィクション作品です。
第二次世界大戦が終り、ナチスが多くの国から略奪した絵画を調べることで
フェルメールをはじめ、何点かの名画に贋作の疑いがかかる。これがこの騒ぎのキッカケだ。

本書はピカソマティス、ミロ、コクトーなどの絵画や素描を偽造した男、
ヒェールト・ヤン・ヤンセンへのインタビューから始まるが、この人の話だけで驚かされる。

例えば自分で偽造した絵の写真をカーレル・アペル本人に送ると、驚くべき事にアペル自身が
本物だと断言してしまうことで真作となってしまい、高値で売れたらしい。
また、フランス政府に絵の返還を求めているらしく、それに対し「実際に戻ってくる公算は?」と聞くと
「あることを願いたいね。  ~ 本物のシャガールピカソの作品が少なくとも一枚ずつある。」
。。。それって自分が描いた偽物が本物扱いになっているってことだよね?読み違いか?

「贋作の多くは転売を繰り返しながら真作へと変身していく。売られる回数が多いほど、
 画廊に長く飾られる事でその作品は正真正銘の本物となっていく。」

これが絵画をはじめとする美術界の裏の常識なのでしょうか。


ハン・ファン・メーヘレンは若い頃から天才的な技術を持ちながらその性格が災いし、
自我の強さから敵も多かった。
有力な批評家と敵対し立場が悪くなる中で、その実力を示すため、有力な批評家たちに
復讐しようと考えるようになる。彼の考えにも一理あると思う部分はあるが被害妄想的でもある。
そもそも批評家の奥さんを画家が横取りしたら冷静な批評なんかされないはずだしね。

ピカソやダリに批判的で、特にピカソのことは「子供の仕事」と言い切るくらいの自信家なのだが
言うだけのことはあって、あっという間にピカソが描いたような絵を描きあげてしまう。
「たとえ贋作ビジネスに手を染めるにしても、劣ったやつの贋作はつくりません」
高い技術と憎たらしいくらいの自負心があるからこその言葉でしょう。

メーヘレンのありったけの情熱と知識と労力と技術によって描かれた「エマオの食事」は
批評家たちの思惑と欲望と希望を利用してまんまと本物のフェルメール作品となった。
この過程を読むだけで、そこまでやるのか!と贋作につぎ込んだエネルギーの持続には恐れ入る。
果たしてこれを贋作と呼ぶのだろうか。


贋作と知りながら黙っている批評家、贋作だと知りながら売っている画商、
贋作だと知りながら手放さない人など自分には全く理解できない世界があることは新鮮に驚きましたが、
今後、突然有名画家の作品が発見された折りには、果たして真贋の程はいかがなものだろう?と
遠くから見物できる楽しみが増えました(笑)
残念ながら今後も需要がある限り、供給され続けていくものなのかもしれません。
まあいずれにしてもどうせ素人の自分には見抜く力は無いので、美術館にあるものは全部本物だと思って
楽しむことにします。