吉祥読本

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平ら山を越えて ::テリー・ビッスン

先月の二人じゃネットに続いて奇想コレクション2冊目のテリー・ビッスンの作品集です。
今回の作品は「ふたりジャネット」に比べるとおとなしいというか風刺の強い作品が多い。



「平ら山を越えて」
 大きな山の向こうへ向かうトラックの運転手とヒッチハイカーの少年の交流を描く。
 山の向こうと言っても大気がないところに達しているのだから半端じゃない。
 巨大ロブスターの登場などが絡み、ラファティの後継者らしいホラ話。ノスタルジックで暖かい。

 

「ジョージ」
 翼を持って生まれたジョージ。医者たちは翼を手術で取り除こうとするが。。。
 ラストがハッピーエンドで微笑ましい作品です。

 

「ちょっとだけ違う故郷」
 二人の少年と体の不自由な一人の少女が異世界へ行くSF。
 切ないラストは少年少女を主人公としたSF映画でも観ているよう。

 

「ザ・ジョーショウ」
 珍しくエロティックなSF作品。特に可もなく不可もなく。

 

「スカウトの名誉」
 孤独感を感じている女性のもとに混入してきたメールは、どうやらネアンデルタール人
 生きていた時代に タイムトリップした人?から送られてきているらしい。
 手の込んだ作品です。

 

「光を見た」
 ファーストコンタクトもののSF。クラークの2001年シリーズみたいだと思いながら読んだが、
 巻末にクラークの短編と同じアイデアとモロに書いてあった。短編てことは「前哨」だな。

 

「マックたち」
 テロの加害者のクローンが被害者家族たちに送られた。そのクローンがどうなったかを
 インタビューの回答で描く作品。最後の切れ味は初読でもお見事!と思うが、
 巻末の作品の作られた経緯を読んでから再読した。
 背景を知ってから改めて読むと、この作品の重さがよくわかる。

 

「カールの園芸と造園」
 環境問題を風刺した作品ですね。植物を守るために必死になる姿が目に浮かびます。

 

「謹啓」
 増えすぎた人口を調整するために一定以上の年齢になると届く「赤紙」を受け取る夫婦。
 尊厳を守るための選択とは。。。なんとも切ない物語です。
 ポールマッカートニー&ウイングスのバラードで「Treat Her Gently/Lonely Old People」
 という曲があって、読んでいる途中から頭の中で響いていました。ご存知無いでしょうが(笑)



どちらかといえば「ふたりジャネット」のほうが好み。
巻末にもあるが、もともと政治運動で投獄経験があるくらいだから辛目の風刺が強くなったのかな?
印象的なのは「ジョージ」「ちょっとだけ違う故郷」「マックたち」「謹啓」でした。



既刊の奇想コレクションは、これにて読破してしまいました。19冊を19ヶ月かけて読んできましたが
長かった~。自分で勝手に始めたんですけどようやく開放された感じもあります(笑)
あとはずっと出ると書いてありながら遅れまくっている「たんぽぽ娘」を待つだけですが、
いつになるのやら。
「平ら山を越えて」の帯には2011年刊行予定と書いてありましたが、期待せずに待ちたいと思います。