吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

こちらあみ子 /今村夏子

表紙が小川洋子さんの「人質の朗読会」と非常に似ていたので手にとってみると、
やはり同じ人でした。2作品掲載されてます。

 

「こちらあみ子」
 はっきりと明記されないが、なんらかの障害を持っていると思われる女の子の視線で語られる物語。
 中学を卒業したあたりの年齢になり、小学生の頃から今までを彼女なりに振り返っている。
 自由すぎる発言で家族や周辺の人たちをを傷つけたり、風呂に入らず臭かったり
 同級生からは嫌われる存在でありながら、ひたすら自分の基準で動いている。
 学校に遅刻しても早退しても誰からも怒られない存在。
 彼女が好きな同級生「のり君」は彼女を疎ましく思いながら、あみ子の兄に頼まれて面倒を見ている。
 結局、彼はあみ子を殴るわけだが、彼の気持ちを考えると仕方が無いと思えてしまう。
 女の子を殴ってしまう男の子の気持ちがわかる、と書くと酷いと思われるかもしれないが。。。

 

 家族が徐々に崩壊していく様を同時に描きつつ、彼女が徐々に成長していく様も垣間見える。
 感想の難しい作品ではあるがあみ子の世界が広がっていく道筋がぼんやり見える。
 (太宰治賞、三島由紀夫賞受賞)

 

「ピクニック」
 これは七瀬という女性の恋愛模様を描いているようで、人間関係をとてもシビアに描いている。
 正直、人間の持つ残酷さが優しさのオブラートに包まれていることが怖い。
 七瀬の語る恋愛は本当なのか?、彼女を見守る周囲の仲間たちの心理とは?
 新人の放つたった一言に唖然。周囲のダークさが薄ら寒い。
 「こちらあみ子」よりも「ピクニック」のほうが作品的には印象に残った。



デビュー作で賞を獲るだけの事はあるのかもしれないが、何とも嫌な気分になりつつ
妙にユーモラスでもある作風。
二作とも根本は不器用なコミュニケーションが描かれ、心にも潜む悪意を描いているよう。。。
どう読んでいいのか判断がつかないというのが正直なところですが、
今後も要チェックな作家さんでもあります。