吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

オーバーストーリー

著者:リチャード・パワーズ
翻訳:木原善彦
出版社:新潮社

 

アメリカの原始林にそびえる大木を開発による危機から守る人たちの戦いが描かれる。
と書くと単純な話しになってしまうが、第一部の登場人物たちの物語がそれぞれ面白い。
栗の木の写真を代々撮り続ける男、感電死から蘇生した女子大生、半身不随になったプログラマー、木のコミュニティに関する論文を発表し、追放される研究者などのバラバラな物語は、これが今後どのように繋がるのだろうと期待させる。
第二部で大木の伐採を阻止しようと集合する人たちの戦いは環境保護を過激に訴える人たちとして描かれ、彼らの運命は徐々に変転していく。
淡々と読める文章で、最終的に地球全体の運命を描こうとした大いなる野心作だと思う。

パワーズを読むのはデビュー作「舞踏会へ向かう三人の農夫」以来。
色々な視点の切り替えで気が付くと大きな意味で二十世紀を活写した作品でなかなか読みごたえがあったため本作(ピュリッツァー賞を受賞)はかなり期待していたが、「舞踏会~」のほうが好きな作品でした。

各人物たちのストーリーは、短編でありながらもう少し読みたいなと思わせるものだったが、環境団体の行動にあまり共感できなかったせいか少し引いて読んでいた。
もちろん気持ちはわかるし環境問題は大事だが、では何ができるか?と問われると、
結局ゴミの分別をしていることで環境問題を考えているふりをしている自分に気づいて何も言い返せないし、これぐらいならいいかな?と自然破壊に加担している一味でしかないのだ。

ただこの後味の悪い、気まずい気分を味わうことを多くの人が少しずつ持つことがまず大事なのかな?

と、自分を擁護してみる。


2019/12/9読了