吉祥読本

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禍いの科学-正義が愚行に変わるとき

著者:ポール・A.オフィット
翻訳:関谷冬華
出版社:日経ナショナルジオグラフィック


現代では考えられないとんでもない療法に関する本を以前読んだが、
本作を読むと、これからも色々なことが起きかねないことがよくわかる。
マーガリン、ロボトミー手術、DDTなど大きく7つの題材が紹介されているが、
何を信じていいのだろうかと不安になる。

健康を考慮して動物性のバターの代わりに植物性のマーガリンを広めたら
別の危険を招いていたとか、
あり得ないくらい杜撰で読んでいても気分が悪くなるような
ロボトミー手術が一時期とはいえ市民権を得ていたとか、
ヒトラーに影響を与えた民族浄化の発想の起点はアメリカにあったとか
知らないことばかりだ。
それぞれエキセントリックな人たちが率先していたわけでは無く、
むしろノーベル賞を受賞しているようなレベルの頭脳の持ち主が
真面目に取り組んでいるのだから批判どころか正当化されやすいだろう。

ロボトミー手術も衝撃的だったが、一番驚いたのはレイチェル・カーソンのこと。
沈黙の春」で環境問題を世に知らしめたカーソン。
かく言う自分もその一人で、学者らしからぬ文体でわかりやすく
これをきっかけに、カーソンの著書はほぼ読んだ。
それまで殺虫剤として役立っていたDDTが汚染を広げて
環境を破壊することになると主張し、DDTが禁止されるきっかけとなったが、
そのことにより多くの子供たちがマラリアにより死んでいたという事実は重い。
一方向から極端に固執した正しいと信じた考え方が
別方向から見ると全く破壊的な結果を招くのは戦争と同じくらい危険なことだろう。
カーソンが意図的に都合の悪いデータを無視したのだとしたら、
何と嘆かわしいことか。

だからと言って「沈黙の春」の価値が下がった訳ではない。
環境を考えるうえで大いに参考になるものであることに変わりはない。

専門的なことはわからないのは仕方がないと思うが、新しいものには
せめて可能な限りの情報収集と、多数意見に惑わされることなく
考えられるだけ考えて何事も過剰にならないように、
かつ想像力を駆使することが大切なのだと肝に銘じる。