出版社:中央公論新社
「中国史」を舞台としたSF短編集。
今まで読んだ「中国史」を絡ませたSFは面白いと思う作品が多かったので
本作品集はとても興味深かった。
中国史に特に詳しいわけではないが、中国らしい雰囲気を生かしつつ
もっともらしい法螺で歴史を改変したり、タイムスリップしてみたり等々
スケール感と幅広さを感じさせる作品集だった。
甲乙を付けるのが難しいが、「孔子、泰山に登る」は重々しい流れのようで
飛行機的ガジェットが出てきたり一気にSFを感じさせる展開が用意されていたり、
雰囲気が好み。
中国にコーヒー文化が根付いている歴史改変を真実のように書ききる
「南方に嘉蘇あり」にはところどころクスリとさせられる。
基本的に恋愛小説は読まないが、「永夏の夢」のような時を駆ける
少し捻くれながら繰り返されるスケールの大きいストーリーには好感を持った。
中国の作品はSFに限らず、重々しい作品に思わせてどこかとぼけた感じのユーモアや
諦観を装いながら強かな生命力を感じさせるものが多いように思うが、
多分に社会的背景が反映されているのかな。
近代になると日本との関係がどうしても出てくるので、
内容により微妙な気持ちになる場合もあるのだが。
あと、大恵和実さんの解説がなかなか読みごたえがあって参考になった。
続編的なものが出そうな気配。
作品:
「南方に嘉蘇あり」 馬伯庸 著 / 大恵和実 翻訳
「陥落の前に」 程婧波 著 / 林久之 翻訳
「移動迷宮 The Maze Runner」 飛氘 著 / 上原かおり 翻訳
「広寒生のあるいは短き一生」 梁清散 著 / 大恵和実 翻訳
「時の祝福」 宝樹 著 / 大久保洋子 翻訳
「一九三八年上海の記憶」 韓松 著 / 林久之 翻訳
「永夏の夢」 夏笳 著 / 立原透耶 翻訳