もともと前著「掃除婦のための手引き書」に収められなかった作品群が
今回の作品集となり、これで「掃除婦のための手引き書」は全てとの事。
前作同様、いずれも著者の経験が強く反映されている作品が多いようだ。
それぞれの作品に散りばめられた鋭い表現にハッとさせられる。
重苦しいどうにもならない境遇、苦しさや切なさの中で冷めた感覚を持ちながら
たくましく生きる姿を 爽やかさや時にユーモラスにも描いている。
印象的な作品はたくさんあるが、特に印象に残ったのが下記3作品。
ガチャガチャした雰囲気のなかで実は切羽詰まっている現実に揺れ動く
主人公を描く「虎に嚙まれて」。
他人からどんな目で見られているのだろうと自分のことをつい考えてしまったが、
他人がわかるわけないよな、自分だってわからないんだから。
分かったふりをする奴は多いけどな。
なんてつらつらと思いながら読んでいた「哀しみ」。
どうしようもない年の差カップルの生活に大丈夫か?と思いつつ
弁護士の視点を交えた「笑ってみせてよ」は
この作品集のなかで最も気に入った終わり方。
決して素晴らしい人生が待っているようには思えないが、
苦笑しながら「お前等の人生だ、まあ、頑張れ」と呟くしかない。
切り取られた人生の断片がこんな形でさらけ出されるとちょっと躊躇もするが、
その巧みな描き方には様々な味わいがある。