吉祥読本

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目撃者-近藤紘一全軌跡1971~1986 --近藤紘一

近藤紘一さんは、残念ながらずいぶん前に若くして亡くなられているのですが、
特派員として生きていた時、奥様の自殺をきっかけにベトナムという戦場を駆け巡るようになり、
ベトナムの歴史を目に刻みながらベトナムで生活した人です。

この本は一周忌に出版されたもので、冒頭には司馬遼太郎の近藤さんへの想いがこめられた、
また、近藤さんという人がどんな人だったかがわかる弔辞が掲載されています。
前半はエッセイ、評論、ルポルタージュなど、未発表の作品で構成されていて、
近藤さんという人をざっと知ることができます。
その後に続く創作は、これらの文章を読むことで格段に心に響いてきます。
生きていたら、どんな文章を書いてくれたのだろうと、残念に思います。

創作として書かれている「夏の海」は、何年経っても忘れられない文章です。
約20ページぐらいの小品ではあるのですが、
沢木耕太郎も書いているとおり、とても美しい文章だと思います。
最近、泣かせることを目的とした小説が増えているように感じるのですが、
技術ではない、淡々とした滲み出すようなこの自然な文章のなんと素晴らしいことか。
最後の数行は、何度読んでも近藤さんの優しさ、人柄、愛情が感じられ、静かに心に沁みてきます。

沢木耕太郎の解説も、いかに素晴らしいジャーナリスト、才能が失われたかが伝わってきます。
ちなみに、この本の構成は沢木耕太郎が担当しています。

奥付を見てみたら、1991年初版(文庫)で、日付が自分の誕生日でした。
ちょうどこの年は自分にとっても色々なことがあった年として記憶に残る年です。
多分このタイミングで出会うべくして出会った本だったのかもしれません。

この本は私にとって、とても大切な一冊です。