吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

凍 --沢木耕太郎

極限のクライミングを描く、究極の筆致。『檀』から十年、最新長編作品。
最強の呼び声高いクライマー・山野井夫妻が挑んだ、ヒマラヤの高峰・ギャチュンカン。
雪崩による「一瞬の魔」は、美しい氷壁死の壁に変えた。
宙吊りになった妻の頭上で、生きて帰るために迫られた後戻りできない選択とは―。
フィクション・ノンフィクションの枠を超え、圧倒的存在感で屹立する、ある登山の物語。
(「BOOK」データベースより引用)



正直なところクライミングをやりたいという気持ちが分からない。
にもかかわらず、たま~にこの手の作品を読んでしまうのは、なぜなんでしょう。
富士山での悲劇が先日ニュースになっていたが、それをきっかけにこの作品の棚卸をしました。
山野井さんのお名前は、聞いたことがあったので知っていたが、多分ニュースで知ったのだと思う。
そのニュースの顛末が多分、本書で描かれたことなのだろう。

 

読み始めはいつものように沢木らしい淡々とした文章で、それが心地よいというより退屈ですらあった。
失敗かと思ったが、ギャチュンカンに挑戦する山野井夫妻の闘いぶりを読んでいるうちに
そのあまりの壮絶な状況に、読む手が止まらなくなってしまった。
淡々と描かれているにも関わらず、たびたび痛みが伝わってくる(ような気がします)。

 

この二人は、どうしてあきらめないんだろう?

 

8000メートルの壁面で雪崩を受け宙づりになり、、山野井とはロープで繋がっているとはいえ、
50メートル落下して生死が不明になった妙子の冷静な対処と強靭な精神力の何たることか。
もちろん同じく壁にぶら下がっている山野井の冷静かつ冷徹とも思える思考の何たることか。
ここが最大の山場でもあるので詳しくは書かないが、人はここまで強くなれるものか。
お互いの行動に、互いの信頼感を寄せ合っている様がひしひしと伝わってくる。

 

解説の池澤夏樹氏も書いているが、軽々しい言葉でこの二人を言い表すことなどとてもできない。
沢木耕太郎の文章は、かなり抑えた表現でこの夫婦の関係を簡潔に伝えていてわかりやすい。
が、この作品の凄み、圧倒的な存在感は、やはりこの夫婦の情熱によってのみしか感じることができないだろう。

 

自分の普段の生活で陥っているきつい状況など、この夫婦の前では恥ずかしくて語れない。
この状況に比べれば大抵のことは必ず乗り越えられると思わされる点では、
自分の叱咤激励用になる作品かもしれない。

 

山野井氏自身が書いた「垂直の記憶」という作品があるらしいので、
そちらも見つけたら是非読んでみようと思う。