吉祥読本

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将軍が目醒めた時 --筒井康隆

出久根達郎さんの「古本綺譚」にでてきた実在した人物、
芦原将軍の興味をもったため、やはり同じ人物を題材にした筒井作品を読みました。
この短編集は持っていなかったいし読んだ記憶もなかったのですが、読んでみると2~3作品に
既読感があったので友人から借りて読んだのかもしれません。
どのみちほぼ忘れていたのでいいのですが(笑)

 

「万延元年のラグビー」 「ヤマザキ」 「乗越駅の刑罰」 「騒春」 「新宿コンフィデンシャル」
「カンチョレ族の繁栄」 「註釈の多い年譜」 「家」 「空飛ぶ表具屋」 「将軍が目醒めた時」の10編収録。



「万延元年のラグビー」は時代劇とラグビーを結びつけてしまいます。
「どわしっ」
「どべら」
「こんどら」
「しゃばどす」
「ぱらずんべら」
刀での斬り合いのシーンには独特の擬音や表現が随所に出てきて筒井作品らしさに懐かしさを感じた。
ラグビーのボールにされるのは、ある人物の首なんですが。。。

 

ヤマザキ」は光秀の謀反の報を受け、大返しする秀吉の話。
それを筒井流に料理するとこんな話になるんだなあ。
途中から自由過ぎる筒井さん、なんだよそれ!と呆れてしまう展開には苦笑してしまいます。

 

「乗越駅の刑罰」は猫好きさんには嫌われそうな展開ですが、不条理な状況にどんどん追い込まれていく
作家の末路は哀れです。最後はホラーっぽいというか、、、やっぱ不条理。

 

そして目的の「将軍が目醒めた時」。
正常(だと思っている)世界からいつのまにか狂気の世界を描くことが多い筒井作品だが、
ここで描かれる狂人であったはずの芦原将軍は、むしろ正常な人として描かれる。
正常な感覚を取り戻した将軍は、病院や軍部のために狂人でいる事を望まれ
その役を演じ続ける事となる。本当に狂っているのは何か。。。

 

この短編集で、実は一番驚いたのが 「空飛ぶ表具屋」。
なんと大好きな飯嶋和一さんの「始祖鳥記」と同じ主人公、幸吉のお話じゃありませんか!
「古本綺譚」から「将軍が目醒めた時」、そしてそこから「始祖鳥記」につながるとは。
こんなところも読書の楽しみです。

 

この時代(文庫は昭和五十一年初版)の筒井作品はバリエーションを楽しめ、
表裏一体の不条理世界を一貫して描いていることがよくわかります。