吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

冷血 --トルーマン・カポーティ

ゲイ・タリーズトルーマン・カポーティを読むと手法の違いがはっきりしていて面白い。
タリーズ「汝の父を敬え」 がニュー・ジャナリズムの代表作ならば、
カポーティの「冷血」はノンフィクション・ノベルの代表作でしょう。
完成までにタリーズは7年、カポーティは5年かけている。

 

アメリカの田舎にある農村で起こった一家四人の惨殺事件。
犯人は二人。ディックとペリー。
カポーティはこの事件に興味をもち、緻密な取材、調査で膨大な資料を収集する。
これらを解析して事件を再構築した作品であれば通常のノンフィクションになったはずだが
これはノンフィクション・ノベル。

 

文章としては冷静に関係者たちの背景や、犯人、犯人の家族、捜査側をはじめとする
周辺の人たちの状況が心理描写を含め、かなり客観的に書かれている。
だが、客観的な事実だけでこの作品は完成できなかったわけだ。
カポーティは犯人の一人、ペリーに感情移入することで犯行時の状況を描き出す。
そこには「創作」がはいるのだが、そこで初めてカポーティの描き出したいことが完成する。
そんなところにカポーティの作品に対する情熱が感じられる。

 

解説で訳者の瀧口直太郎氏が本書の特長を以下のように書いているので引用する。
(1)作者は作品の中に登場するべきではない
(2)選択によって作者の見解を示す
(3)創作的処理を必要とする

 

これだけでノンフィクション・ノベルとニュー・ジャーナリズムとは対極にあることがわかる。
勿論どちらの手法が好きとか嫌いとかではない。
どちらも面白い。



カポーティはきっとこの作品を仕上げたことで至福の時を迎えたに違いない。

 

読者として、いろいろな手法を比べながら読書の醍醐味を味うことができた。

 

素晴らしい彼らに、そして彼らの作品に感謝したい気持ちでいっぱいです。