吉祥読本

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ルート350 --古川日出男

比喩表現を使わせてもらえば世界を箱庭に閉じ込めてしまったり、細胞を宇宙にしてしまったり、縦横無尽にスケールを変化させながら発する言葉とビートが機関銃のように乱射されるのは気持ちが良い反面、「的」をはずしやすい気持ち悪さをも伴う。
短編集なのに読むのに意外と時間がかかってしまった。。。

 

「これは、僕としては初めてのストレートな短編集だ。」とは著者自身の言葉だが、
ストレートでも「消える魔球」が混じってたりしないか?


8編の印象を順不同で書いてみます。

 

「お前のことは忘れていないよバッハ」はハムスターの世界観と語り部の女性の世界観の切り替えが容易に理解でき、イントロとしての役割を充分果たした作品です。

 

「一九九一年、埋め立て地がお台場になる前」は感覚的に読むだけで、無理に意味を考えないほうがいいかもしれません。
感じる事ができればそれで良くて、感じることが出来なければそれも良し。
「ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター」は、とても良い感じで好きなんですが、二作品とも「サウンドトラック」の一部を読んでいる気がしました。「サウンドトラック」も読んでみてね、と申し添えたい。

 

「カノン」「メロウ」に関しては子供たちの状態、気持ちがいまひとつ伝わってこなくて。。。今度間をおいてから読んでみようかなと思います。
と、言いながら「メロウ」には「サウンドトラック」の流れもあるような。

 

「物語卵」はこの作品群の中でも異色ですね。この作品は古川日出男を読み解くうえで
無視できない作品ではないかと思います。何が?という問いには答えられませんが(笑)いろんなエッセンスが含まれています。

 

「飲み物はいるかい」はこの中で一番好きな作品です。
読んでいないのに適当ですが(笑)「サマーバケーションEP」との関連を想像させますがどうなんでしょう。
少女との会話が秀逸で、目の前の橋を移動するだけの「旅」によるスケールの切り替えにより古川日出男自身のスタンスをも感じ取ることが出来たような気がします。

 

「ルート350」はかなり短い作品ですが「お前のことは忘れていないよバッハ」をイントロとするとうまい具合にまとめることができた作品でしょう。多分。
他の作品があってはじめて生きる作品のような気がします。


全ての著書を読んでいないのではっきりとは言えませんが、
どの作品も他の長編作品のインデックス的役割を果たしているのではないでしょうか。
この中では「ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター」と
「飲み物はいるかい」が特に面白い作品だと思います。
次くらいに「お前のことは忘れていないよバッハ」ですね。

 

が、正直な事を言うと古川さんの良さは長編にあると、かなり明確に思いました。
結局この作品群には物足りなさを感じたってことなんですが、この短さで表現するには機関銃の弾数が少なすぎるのでしょう。かといって、その短い作品たちでさえ理解しきっていないことも確かなのでアレですけど(苦笑)


次に読む古川作品はそろそろデビュー作にしようかと思います。
上半期には念願の「アラビアの夜の種族」を制覇したので、下半期はデビュー作「13」を制覇し、勢いが続けば、いやエネルギーが残っていれば「聖家族」を制覇、とかなんとか思ったりなんかしちゃったりして、と表明して自らにプレッシャーをかけちゃったっりして。。。

って、広川太一郎か!!