吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

グラーグ57(上下) --トム・ロブ・スミス

チャイルド44の続編である。
前作はロシアの絶望的な環境がこれでもかと書き込まれ、重苦しさを漂わせながらもグイグイと引き込む力量を見せつけられ、堪能できました。
3年後、モスクワ殺人課が創設され責任者に収まったレオが、フルシチョフスターリン批判をきっかけに窮地に追いやられる。
本作は徹底的なエンタメ作品としては楽しめるが、チャイルド44に比べると軽さを増し、より映像的であるため、格段に読みやすくもなった。
しかし、反比例するかのように物語に力が無くなってしまったように感じる。

 

このストーリーの主人公はレオではなく、国家やレオに恨みを持つ「フラエラ」という
裏社会を牛耳る女性と言っていいでしょう。
憎悪をエネルギーの源にし、復讐のための狡猾かつパワフルな行動力は圧倒的です。
それに比べるとレオはただの男になってしまった感じで、魅力が半減してしまいました。
レオの味わう地獄もなんとな~く乗り切れちゃうんだろうなあと緊迫感を感じなかったし、物語の掴み、めまぐるしく展開するストーリー、誰が敵で誰が味方かなど、前作同様堪能できたのですが、舞台がブダベストに移ってから一気に失速してしまった気がします。
読みやすくなった分、特にラストに向けての都合のいい展開のコラージュにはいい意味でも悪い意味でもかつてのハリウッド映画のような印象を受けました。
チャイルド44よりも面白いエンタメ映画の原作とはなるでしょうがそれ以上でもそれ以下でもない気がします。
映像的演出力はかなりいいものを持っている作家さんだと思いますし、ちょっとした伏線をきっちり収める細やかさも持ち合わせているので、あとは心理描写をきっちり書き込んでほしいところ。
第三部があるようだが、レオはより普通に、そして愛に生きる男になるのだろうか(笑)
ハリウッド映画的に考えると、親友のネステロフは第三部で復活するのではないか?
レオがとことん追い詰められた時に「オレだよ」みたいな。
と、勘ぐっているしそうであって欲しいのだが確認するためにも第三部も読むんだろうなあ、自分。