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海賊モア船長の憂鬱(上下) ::多島斗志之

イギリス東インド会社に勤めるクレイは、インド東海岸にある港街、マドラスに到着した。謹厳実直で知られる上席商務員が“マドラスの星”と称される400 カラットのダイアモンドを手に姿を消したのだ。誘拐か、はたまた着服か。事件にはどうやら「果敢にして知略に秀づ」とその名を轟かす海賊モア船長が関わっているという噂があり…。勇敢で聡明な海の男たちが活躍する、才智を尽くした頭脳戦!海洋冒険小説、待望の文庫化。



やはりこういう海洋冒険小説は夏に読みたいものです。
この作品、「海賊モア船長の遍歴」の続編なので、そちらを先に読むべきなんでしょうけど、時期を逃したくなかったので読んじゃいました。
文庫は上下巻ですが、非常に読みやすい作品です。
「~遍歴」を読んでなくて大丈夫かな?とちょっと心配してましたが全く気になりませんでした。

 

登場人物が多く、誰だったか分からなくなって戻る事が何度かありましたが(笑)
日本人が書く海賊モノとしては翻訳した作品のように違和感がありませんでした。
イギリスの東インド会社やオランダやフランスの海軍のそれぞれの思惑や得体の知れない存在感を示すマドラスの長官ピット、そして海賊ジェームス・モア船長とピットの関係や海軍との駆け引きなどが次から次へと展開して楽しめました。

 

長期間にわたる戦略構築など、荒くれのイメージがある海賊とは一味違うモア船長のリーダーとしての資質は素晴らしいものがありますが、驚いたのが海賊の掟が案外民主的だったということ。
船長を決めるのも多数決だし、戦闘中の指揮は強権を持って船長命令が優先されるが基本的戦略も話し合いで決められるなど意外でした。
個性的な海賊たちをキッチリと言いくるめてしまう船長は穏やかで魅力的で、海賊よりもよっぽど東インド会社や国家のほうがあくどい印象でした。
ラストのドンデン返しはちょっと都合が良い感じはしますが、きっちりと伏線の回収にもなっていたし痛快なので気にしない気にしない(笑)



巻末に参考文献リストがあり、作者が結構下調べをされていることがわかります。
海賊に関する基本的な作品を読みたいと思っていたので、個人的にこの文献リストは嬉しいオマケです。
どれも読みたいけど、さすがに図書館じゃないと厳しいかな?