吉祥読本

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時計じかけのオレンジ ::アンソニー・バージェス

来年、舞台化されるらしいと知り、しばらく積んでいた本書をようやく棚卸しすることにしました。

 

ストーリー自体は映画で知っているが、だからといってロシア語と英語のスラングである「ナッドサット」が慣れるまでは読みにくい。

 

この作品を語る上でスタンリー・キューブリックの映画を無視することはできない。
はじめて映画を観たとき、その暴力的な描写や後味の悪さに衝撃を受けた。
しかし、自業自得ながら翻弄される主人公の行末だけではなく、将来的な社会に対する不穏なメッセージにドキドキしたものだ。
今でも好き(とは言いがたいけど、好き どっちだ!)な映画として自分の中では
上位にランクしている。

 

読んだ版は「完全版」を謳っている。
アメリカで出版された際、最終章が削除されたことによって、ふたつのバージョンが存在する事になってしまったようだが、キューブリックは最終章を削ったバージョンで撮影した。

 

今回ようやく最終章を知ることができたが、正直微妙。
というかこの最終章で作品に対する印象はだいぶ変わってしまう。
作りだけを考えるとキューブリックの映像の閉じ方は大正解だと思う。
原作の最終章は、映像から入った者としては蛇足に感じる。キレが失われてしまうのだ。

 

ストーリー展開や暴力描写などは原作のほうが少しだけ激しいが、映画は原作にかなり忠実でした。
違いは最終章の有無くらいと思っていいかも。
(ビデオデッキが壊れていなければすぐにでも確認できるんですが。。。)
作者はキューブリックの映画を認めていなかったようだが、最終章を映像化したら
陳腐な映画になったと思う。あとは好みの問題。

 

近未来を描いたSFではあるが、内容としては現代を舞台と考えても全く支障がない。
暴力と人間性のコントロールは「臭いものに蓋」的なところもあるし、凶悪化する犯罪のニュースを知るたびに犯罪者のコントロールは必要なのではないかと思うこともある。
しかしこの作品が示すように「蓋」をする側の色々なかたちの暴力を肯定することもできない。

 

本作の近未来は既に来ているし、むしろすでに通り越してしまっている気もする。
こんな時代が来なければいいなあ、、、ではない。