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オリンピア ナチスの森で ::沢木耕太郎

ベルリンオリンピックの記録映画「オリンピア」は評価が高いというのは知っていますが
実際には観たことがありません。
ナチスドイツのプロパガンダ映画と言われた作品がなぜ評価が高いのだろうという疑問がありますが、
実際に観ない事には判断はできませんね。

 

沢木は「オリンピア」を製作した映画監督の女性、レニ・リーフェンシュタールに取材を行います。
取材当時90歳にもかかわらず、かなり元気な様子です。(103歳で亡くなられたそうです)
ちなみに「オリンピア」は正式な作品名ではなく、二部作「民族の祭典」「美の祭典」の総称とのこと。
書き出しからすると映画をメインに映画が作成された背景、制作の裏話、ヒトラーナチスとの関わりが
メインの話かと思いましたが実際には日本選手をはじめとする参加選手たちの明暗など
かつての沢木さんがお得意とするタイプの淡々とした文章で、オリンピックに関わった
アスリートたちの悲喜劇をピックアップしていました。

 

また新聞報道の白熱したバトル、ファクシミリの利用実験など報道技術という観点からの逸話も興味深い。
ところで前畑ガンバレ!という実況中継のことをご存知の方は多いと思いますが(え?知りません? 笑)
それがこのオリンピックの水泳で行われた中継です。
「実感放送」というらしいですが知りませんでした。でも確かに実況放送より実感放送の呼び方が
シックリします。
また、バタフライが平泳ぎから派生した泳法で、ベルリンオリンピック時点では平泳ぎのレースに
バタフライで泳ぐ選手がいたということもはじめて知りました。

 

ヒトラーが世界に力を誇示するためにずいぶんと力を入れたようで、選手にとって環境も良く
かなりの記録ラッシュでもあったようです。
この時期の日本はかなり成績が良かったんですね。
水泳が強かったのは知っていましたが、陸上が強かったのは意外でした。
当時の選手自身の精神力も強いんでしょうけど、今よりも国を背負っている度合いが大きく、
かなりのプレッシャーが選手たちにかかっていた様子がよく伝わってきました。

 

驚いたのは、レニの制作した映画は完全なドキュメンタリーだと思ったのですが、実は一部、
映画のために競技終了後に実際の選手たちを使って再現させて撮影し、
インサートしている部分があったとのこと。
今ならオリンピック映像としてはちょっと考えられない過剰演出ではないかと。
あと、フィルムの裏焼きを編集してつなげて演出したり、どうなの?って感じですが、
案外気付かれなかったようですね。
記録映画にこれらの演出を加えることで芸術性が高まり、結果的にヴェネツィア国際映画祭
金賞を獲得することもできたんでしょう。

 

知らないことが多く楽しめた反面、沢木さんはレニに遠慮しているのかインタビュー内容に
物足りなさを感じたのがちょっと残念。