吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

写楽 閉じた国の幻 /島田荘司

とにかく長い作品でした。
主人公の男は写楽の研究者。冒頭、自分の不注意から六本木のビルの回転扉で子供を喪ってしまう。
それをきっかけに陥る負のスパイラルにかなりのページ数が割かれるが、
事故を検証するためのスタッフの一人として出会う非のうちどころのない美人大学教授が登場し、
ようやく本題の写楽の正体解明がスピードアップする。

 

読み終わってから思うことは、冒頭の事故と写楽の解明が繋がらずストーリーとしては
グダグダだということ。
著者が妄想する理想的な女性と著者が反映されていると思われる主人公には正直辟易する。
著者はあとがきでストーリー的にうまくいっていないことを述べているし、続編の構想もあり、
全てをうまくまとめたい気持ちがあるという。繋がりの悪い部分はその続編を待つしかないようだ。
そして文句を並べていながら何だが、その続編を早く読みたいとも思う自分もいる。

 

写楽に関する作品(ノンフィクション)は随分前に読んだがどんな説だったか
ほぼ忘れてしまっている。。。。
著者は長年写楽に関して調べていたようだ。それは充分伝わってくる。
今まである主だった諸説を網羅していると思われるので写楽に関する本を読んでいなくても
理解しやすいのではないだろうか。
本作品の推理する写楽の正体は、なるほどと思わせ、面白い。
ノンフィクションとして出版しても良かったのでは?

 

また、途中「江戸編」として組み込まれる蔦屋重三郎の話は飯嶋和一が描く主題と似て
大変魅力的な内容だった。
主人公の研究者にはこれっぽっちも共感できなかったぶん、よりそう思ったのかもしれない。

 

本作で解決していない事故の部分は、まさか美人大学教授を登場させるためだけではないだろうから
続編で何かがあるのだろう。それから肉筆画のことも解決していないのが気になる。
今後どのように収束させるのか、それを楽しみに待ちたい。



本来ならすでに公開されているはずだったが大震災のため延期となった「写楽」特別展が
五月から東京国立博物館であるようだ。
連休とぶつかるので厳しいかもしれませんが、なんとか時間を作って観に行きたいものです。