この作品はなんと主人公が陳宮である。そして従来の長編三国志たちに比べると非常に読みやすい。
小役人の父を持ち、小柄だが頭脳明晰のうえ勇敢で信念を曲げない陳宮は異例の出世を遂げていく。
結婚を意識していた張鈴を董卓に奪われ、取り返そうとすることをきっかけに曹操の目に止まり、
曹操の家臣となる。
水を得た魚のように能力を発揮し、曹操配下の夏侯惇、夏侯淵らにも信頼を得る。
曹操と陳宮は、いよいよ勢いを増す董卓を倒すため裏切り者を装い、董卓に寝返るが
そこで運命の男、呂布と出会う。
ところが、ここで描かれる呂布は普段はとてもおどおどしていて陳宮に対しても敬語を使い
董卓が怖くて仕方が無いのだ。むしろ陳宮は呂布を軽くからかってしまうくらいだ。
しかし、ひとたび戦場に出ると敵味方関係なく、見境なしに殺戮する男に変貌する。
三国志の群雄たちが蠢く事になるのだが、曹操の友人だった陳宮がなぜ呂布と組んで
天下を狙うことになったのか、一体何があったのかがこの作品のキモなのでこれ以上は語らない。
曹操配下の有力軍師である郭嘉や荀攸ですら敵わないと言わしめるずば抜けた能力を持ちながら
なぜ君主の選び方を間違えたのか。
曹操や呂布からは部下というより友として扱われながら、なぜ追い詰められたのか。
非常に魅力的に描かれている曹操となぜ敵対することになったのか、通常ならば解せない。
が、人生は思い描いたようにはならないものだ。
呂布の短慮っぷりには陳宮と一緒に歯噛みしたくなるも、まさに「策士、策に溺れる」陳宮も歯がゆい。
生真面目でまっすぐな心を持つ軍師である陳宮の目線で見ると、ちょっとあっさり気味な
展開ではありつつ、それでもナルホドと思わせる内容だった。
曹操と陳宮が最後まで組んでいたら三国志はどのような展開を見せたのであろうか。。。
最後は二人の友情が描かれ、読後感はなかなかよかったです。
ところで曹操をはじめ、呂布や劉備など、主だったキャラクターの描き方が「蒼天航路」に
ソックリだったので、イメージが非常に浮かびやすかった。
きっとキャラクター設定は大いに参考にしたのだろう。
漢字にはかなり親切にふりがなが振ってあるし、登場人物がだいぶ絞り込まれているので
コンパクトに三国志を楽しめる作品でした。
この作家さんはこれがデビュー作ですが、どうやら第二弾、第三弾も準備中らしいので
誰が主役の作品になるのかも興味がありますが、今後が非常に楽しみな作家さんでもあります。