吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

ヤノマミ /国分拓

先日読んだ「空白の五マイル」と同時に大宅壮一ノンフィクション賞を獲得した作品だったので
読みました。

 

ブラジルの先住民、ヤノマミ族の集落ワトリキ(風の地)で150日間に及ぶ同居生活をした著者は
NHKディレクター。
この取材に関しては番組としても放映されているらしいが見ていない。

 

前半は独自の文化を持つヤノマミ(彼らのことばで「人間」の意味)の大家族が
どうのような生活を送っているか、共に日本からやって来た著者とカメラマンは
ナプ(ヤノマミ以外の人間を指す蔑称)と呼ばれながら一緒に生活を始める。
夜になると目の前が見えないくらいの闇が多い尽くすジャングル。
どれだけ想像してもそれを越える濃い闇なのだろう。

 

全く違う環境で過ごしてきたのだから価値基準の違いがあるのは当然である。
前半では文化の違いのギャップが描かれるが、知らない世界の人間の家族構成を読んでも
頭に入ってこないので、正直退屈でもあった。
読み終わっても感想を書くのはやめようと思っていたくらい。

 

が、後半になって14歳の少女ローリの出産にかかわる長い儀式に関する部分に差し掛かってから
突如としてこの作品の様相が変わってくる。
精霊として天に返すか、人間として迎え入れるのか。。女だけが背負い共有する儀式を
直接目撃する著者は驚愕し、ショックを受ける。
その衝撃は読者にも襲い掛かってくるが、直接見た者の本当の衝撃は、読み手には絶対に理解できない。



著者の言葉をいくつか引用すると

 

  「ヤノマミ」の世界には「生も死」も、「聖も俗」も、「暴も愛」も何もかもが同居していた。
   剥き出しのまま、ともに同居していた。
   ・・・
  だが、僕たちの社会はその姿を巧妙に隠す。虚構がまかり通り、剥き出しのものが無い。
   ・・・
  彼らは暴力性と無垢性とが矛盾なく同居する人間だ。
  善悪や規範ではなく、ただ心理だけがある社会に生きる人間だ。



著者は日本に戻ってから心身にダメージを受ける。
何が正しいのかなどではない。
今まで疑う事がなかった自分の尺度が破壊されたために混乱をきたしたのだろう。

 

どうしても自分の尺度で測ってしまうので、ヤノマミ族の生活に関しての感想は述べません。
今いる環境の中で、それを語ることはとても恥ずかしい行為のように思えるんです。