吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

博士の本棚 ::小川洋子

小川さんの読書遍歴など本に関するエッセイ集です。ご自身が影響を受けた本への愛情が感じられます。
言及されている本は、ほとんど読んでいない本なのであまり共感できないのが残念でしたが。
かなり短い文章がいっぱいなので、いくつか印象的だったものを取り上げます。

 

ポール・オースターの「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」ラジオ番組で投稿された話から
面白いものをオースターが朗読したそうで、それをまとめた本とのこと。
年齢や性別、職業の人たちの個人の記録ではあるが、それらを積み上げると微妙に繋がり合い、
一つの世界が構成されていく。。。
この本が刊行されたのが「9.11」の同時多発テロの二日後。
このことをわざわざ付け加えているが、「人質の朗読会」の原点ではないだろうか。

 

また、「原稿○枚」と題されたエッセイはまさしく日記風にその日の出来事を書きとめ、
最後に原稿の進行具合を書いている。
これまたエッセイだと思って読んだ「原稿零枚日記」の原点ではないか?
おかげでエッセイだと思いつつ、実はこのまま妖しい小説に変化していくのではないかと
勘繰ってしまった。

 

子供の頃、コタツの中に隠れるのが好きだったらしい。
「身動きのできない真っ暗な場所であるほど想像をめぐらすことができた」などの記述を読むと
これは「猫を抱いて象と泳ぐ」に繋がっているのではないか?とも思う。
未読作品がまだまだあるので他にも作品のエッセンスが含まれているのかもしれない。

 

「死の床に就いたとき、枕元に置く七冊」というエッセイでは「西瓜糖の日々」が含まれていて
「西瓜糖の日々」を読んで間接的には自分も相当影響を受けていると気付いた経緯があるので
何気なく嬉しかった。

 

いつか小説に変わるのでは?という雰囲気が所々あるので、エッセイとして気楽に読めないことも
しばしばあったが、小川さんの人物像が少し理解できた気がする。