吉祥読本

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ワン・モア・ヌーク

著者:藤井太洋
出版社:新潮社

 

近未来のリアルを描くことが多い作家さんだが、これは2020/3/6~3/11という期間の話しなので、もう目前である。
3.11を題材とする本書は東京に持ち込まれた原子爆弾を利用して政府にある要求を求める人物、その人物と同床異夢のグループ、そして爆発を阻止しようとするチームと警察が入り乱れる。
最初は登場人物の多さに混乱したが、徐々にスピードアップする展開から目が離せなくなる。

エンタメ風ではあるが、3.11による著者の問題意識が顕在化した内容で、その問いかけは重い。
原子力事故の責任の在りか、テロに対する準備、日米関係、中東を含む国際問題など、
著者が提起する多様な問題点はどれも日本という国家や日本人の弱点を明確に浮き上がらせる。

本書は原子爆弾をもって訴えかけているが、今現在、オリンピックを前に新型ウィルスで浮き上がっている日本の右往左往がそのまま当て嵌っているようにも思える。

政府の説明責任、社会や国民に求められる様々なリテラシー、危機を前にどのように行動するか、また危機が来ることを前提に準備する危機管理など、3.11を前に再考する必要性を感じさせる作品である。
当事者意識を持ち、正しい情報を見極める目と知識を持ち、いつまでも先延ばしにしていてはいけない。
自戒を込めて。

 


2020/2/24読了