著者:モリー・グプティル・マニング
翻訳:松尾恭子
出版社:東京創元社
第二次世界大戦でナチスは焚書で多くの書物を処分したことに対し、
アメリカは全米を挙げて戦地の兵士たちに本を送り続けた。
兵士にとって唯一の娯楽であり、士気を挙げるためでもあり、
戦後の復興にも役立つなど、読書の持つ力がこれほど発揮されていたとは驚きである。
アメリカが国民から本の寄付を募り、更に戦地でも読み易くするため、
「兵隊文庫」なるペーパーバックを作り、前線に送るという図書作戦を
展開していたとは知らなかった。
食料、武器の優先性を考えれば本を運ぶことは最後の物資では?と考えてしまうが、
実際は多くの兵士が常にポケットに携行し、擦り切れても大事に持ち続け
兵隊文庫が届くのを心待ちにしていたという事実に驚かされる。
確かに自分が戦地にいたら、一時でも現実を忘れたくて本を渇望するだろう。
今の時代ならスマホがあればと思う人が多いかもしれないが、
電波や熱や明かりで探知されて木端微塵にされる気がする。
日本で戦時にどれだけの本が一般に流通していたのか考えたこともなかったが
きっと余裕はなかっただろうし、そんな発想があっても大々的に実行されることは
なかっただろう。
日本とアメリカの文化を比較すれば当然それぞれ良し悪しはあるが、
兵士を使い捨てのモノではなく、一人の人間として考えるアメリカの成熟度を
見せつけられた気がする。
アメリカだって決して余裕があったわけでは無いのだから。
さて、戦地ではなくとも、無人島なり、南極なり、宇宙なり、
たった一冊の本しか持っていけないとしたら、何を持っていこうか?