吉祥読本

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火を熾す (柴田元幸翻訳叢書―ジャック・ロンドン)

著者:ジャック・ロンドン
翻訳:柴田元幸
出版社:白水社


積んでいるロンドンを差し置いて、またまた寄り道。

しかし、こんな成果のある寄り道なら何度でもしたいもの。

もっと早く本書を読んでいればよかったと後悔しています。


極めて厳しい自然の中をサバイブする姿が描かれる「火を熾す」と「生への執着」。

「火を熾す」では極限の寒さの中で生きるための奮闘に一喜一憂し、

たまに差し込まれる犬の視点は不自然さはなく、

かつ、その冷徹さに妙な可笑しさすら感じる。

「生への執着」も同じようなシチュエーションで、

犬ではなく弱った狼との緊張感漂う関係にもハラハラする。

死線を彷徨う経験を経た男の船での行動は笑えない。


ボクシングを通して生き方や人生の辛苦を描く「メキシコ人」と「一枚のステーキ」。

革命のためにボクシングで金を稼ぐ男の心身の強さだけではなく

不条理な差別にも向き合う姿が強烈に描かれる「メキシコ人」は秀逸。

その日食べるものもないほど追い詰められた年老いたボクサーが

家族のため、生きるため、そのボクシング人生を振り返りながら戦う姿が描かれる

「一枚のステーキ」は誰もが味わう世代交代の悲哀と焦燥が痛いほど伝わってくる。


いずれの作品も読み手を容赦なくその世界に引きずり込み、

容易に共有させてしまう描写に圧倒される。

その他の作品も多様なテーマを描くロンドンの筆致が冴えわたる短編集だった。


【収録作品】
 「火を熾す」
 「メキシコ人」
 「水の子」
 「生の掟」
 「影と閃光」
 「戦争」
 「一枚のステーキ」
 「世界が若かったとき」
 「生への執着」