積んでいるロンドンを差し置いて、またまた寄り道。
しかし、こんな成果のある寄り道なら何度でもしたいもの。
もっと早く本書を読んでいればよかったと後悔しています。
極めて厳しい自然の中をサバイブする姿が描かれる「火を熾す」と「生への執着」。
「火を熾す」では極限の寒さの中で生きるための奮闘に一喜一憂し、
たまに差し込まれる犬の視点は不自然さはなく、
かつ、その冷徹さに妙な可笑しさすら感じる。
「生への執着」も同じようなシチュエーションで、
犬ではなく弱った狼との緊張感漂う関係にもハラハラする。
死線を彷徨う経験を経た男の船での行動は笑えない。
ボクシングを通して生き方や人生の辛苦を描く「メキシコ人」と「一枚のステーキ」。
革命のためにボクシングで金を稼ぐ男の心身の強さだけではなく
不条理な差別にも向き合う姿が強烈に描かれる「メキシコ人」は秀逸。
その日食べるものもないほど追い詰められた年老いたボクサーが
家族のため、生きるため、そのボクシング人生を振り返りながら戦う姿が描かれる
「一枚のステーキ」は誰もが味わう世代交代の悲哀と焦燥が痛いほど伝わってくる。
いずれの作品も読み手を容赦なくその世界に引きずり込み、
容易に共有させてしまう描写に圧倒される。
その他の作品も多様なテーマを描くロンドンの筆致が冴えわたる短編集だった。
【収録作品】
「火を熾す」
「メキシコ人」
「水の子」
「生の掟」
「影と閃光」
「戦争」
「一枚のステーキ」
「世界が若かったとき」
「生への執着」