吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

わが赴くは蒼き大地 --田中光二

20代に長期入院したときの楽しみは本だけといっても良かった。
これを機会に英語の勉強をしようと、オーソン・ウェルズに頼ってみたが挫折した(笑)。
テレビも排除していたので、集中して沢山の本を読むことができたがすぐに問題が。

読む本がない!!
凄い勢いで読めてしまうんですよね。時間がやたらあるわけで・・・

これは読みたいなという本をリストアップして持ってきてもらうも、あっという間に読破。
そのうち頼もうにも既読本かどうかも怪しくなってくる。
そんな時、差し入れられた本の中に本書があったわけだ。

1974年に発表された作品で、海洋SF。

以下は「BOOK」データベースより引用

2205年、地球は突如、宇宙から、“敵(E・M)”の襲撃を受けた。
地上の人類は死に絶え、残されたのは、海中都市に住む人々だけだった。
海底の彼らにも侵略の手が近づく中、“敵”がインフルエンザヴィルスに抵抗力のないことが判明する。
ヴィルスの増殖設備を持つバハマ・シティへサンプルを届けるべく水中歩兵部隊員・チヒロは、
精神感応術者・ジャンとともに深海の決死行へと赴くのだが…。冒険SFの傑作。

と、まあこんな感じ。
ここに書いてないけど、チヒロというのは「えら呼吸」ができる人間で、
まあ半魚人みたいなものです。
潜水艦に乗って目的地までの決死行なんです。

正直なところ作者は名前ぐらいしか知らなかったし、
多分入院しなければ自分から手を出すことは無かったと思う。
ところが読み始めるとすぐにこの世界に入り込めた。
入院中のため集中力はMAXだったためなのだろう。
読んでいる最中に目を閉じると、自分が主人公同様、深海にいる感覚に襲われる。

深海の闇と息苦しさ。
見上げると巨大な生物・・・
30メートルのシャチとか、100メートルのマンタとか、150メートルの謎の生物などが
頭上や近くを通過するシーンが頭に浮かびぞくぞくする。
それぐらい想像力が研ぎ澄まされている感覚は初めてだった。

こんな本あったんだなと感激したが、なぜか続けて読んだはずの他の作品は一冊も覚えていない。

差し入れの本は返したので手に入れておきたかったのだが、昨年ようやく入手し、今年再読できた。
20年以上たってからの再読は・・・

正直なところ言い回しなど多少の読み辛さはあったが、
この作品の凄さを今更ながら感じることもできた。
これが1974年に出た作品なんだと思うと凄いとしか言いようがない。
海に関する描写や知識がかなりあるので、シーンがイメージしやすくリアリティを感じる。
地球や他の生物たちに対する、人間の傲岸さを改めて思い知らされる。
ピラミッドのトップから滑り落ちて初めて気付く愚かさなど、思い当たるフシもある。

ただ、2001年宇宙の旅を彷彿させるシーンがあるけど、影響を受けてるのかな?

今読んでも決して古すぎることはないと思う。
病室ほどの集中力の持続は難しかったが、ひさしぶりに
想像力をフル稼動させた甲斐があるってもんでした。
やっぱり傑作だな。

色々な分野の本を出来るだけ読もうとしているが、
どうしても手が出ない分野(というか作者?)もある。
が、たまには強制的に読むことで新たな楽しみがあることを教えてくれた本。

自分にとってはかなり大事な位置を占める本なんだと再認識したのでした。