吉祥読本

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少女には向かない職業 --桜庭一樹

 

桜庭一樹の初読です。「赤朽葉家の伝説」を読みたいがために、とりあえずここから始めました。



本書より引用

 

あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した・・・・・・あたしはもうだめ。ぜんぜんだめ。
少女の魂は殺人に向かない。誰か最初にそう教えてくれたらよかったのに。
だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけだったから----。
これは、ふたりの少女の凄絶な《闘い》の記録。「赤朽葉家の伝説」の俊英が、
過酷な運命に翻弄される少女の姿を鮮烈に描いて話題を呼んだ傑作。



題名のイメージから、おやじには向かない小説だとばかり思ってずっと敬遠していたのですが
赤朽葉家の伝説」などいくつかの作品を読むには本書はきっとはずせない、と思い込み、
入手したはいいいのですが数ヶ月間ずっと後回しにしてきました。

 

目次からして大丈夫だろうか、と不安にさせます。

 

◆プロローグ
◆一章◎用意するものはすりこぎと菜種油です、と静香は言った
◆二章◎What's your poison?
◆宮乃下静香の告白
◆三章◎用意するものは冷凍マグロと噂好きのおばさんです、と静香は言った
◆終章◎用意するものはバトルアックスと殺意です、と静香は言った



主人公の女子中学生が二人。
学校では無理やり明るく振る舞いながら敵を作らないように過ごす葵。
図書委員のように物静かで目立たない静香。
同じクラスでありながら接点がない二人がひょんなことから人を殺す計画を立てる。

 

女子中学生の経験は当然ないのですが、(あったら怖いけど・・・)男から見ると
不思議な生き物を見ているような気がした覚えはある。
仲良しグループの拡大、縮小、分裂、敵対、再生・・・男にとってはなんとなく肌で感じるだけで
近寄りがたい小さい世界は昔からあったと思う。

 

まだ外界を知らず、ましては都会と違って、はけ口の少ない狭い世界のなかで
孤独感や無力感を味わいながらもがく姿はリアル感があった。

 

また、育児放棄の母親、酒浸りで暴力を振るう義父、常に監視している従兄弟など
彼女たちを取り巻く環境は、読む側を彼女たちの心情に寄り添えるようになっている。
その辺の音をたてて絶望する瞬間などの描写はよく伝わってきたと思う。

 

ところが一転して殺人方法はいたって稚拙である。
まあ、各章のタイトルを見ればかなり砕けているので本格ミステリではないし、
もちろん中学生の考える完全犯罪レベルは低くて当然なんだが、ご愛嬌みたいなものか。
肝心な時に出現する同じ警官にもちょっと出来過ぎじゃない?なんて思うのだが。

 

多分、殺人方法は本書ではあまり重要な事ではないのだろう。
少女たちの心の揺らぎ、中学生ならではの不安定さ、社会や家庭に対する
自分たちだけでは解決できない不満、不安との闘いを殺人と言う方法で極端に
表現した物語りなのではないでしょうか。

 

最後はあっさりとした展開に思いましたが、あれでよかったと思います。納得です。
子供たちが殺人の恐怖や不安を感じることが出来ているわけですし、救いを感じます。
読んでいる側が、かもしれませんが。



正直、結構ちゃんと読めたことに驚いています。
ツッコミどころは多々あるものの目をつぶれるレベルかな。
男、いやオッサンには理解できないものがきっとあるのでしょう。
そのあたりを明確に表現することは出来ませんが、
「理解できないことがある」という部分を差し引くと、なかなか面白い作品だったと思います。
まわりくどい表現でスミマセン。



この作品が評価できなかったら次はいきなり「赤朽葉家の伝説」を読もうかと思ってましたが、
いやいやどうして、ちょっと何作か読んでみようかって感じです。




関係ありませんが説明にある ~「赤朽葉家の伝説」の俊英が、過酷な運命に~と言う部分を読んで
赤朽葉家の伝説」には「俊英」と言う名前の人物が出てきて本書ともリンクしているのかと
勝手に思い込んでいました。作中作家みたいな感じで出てくるのかな、なんて(笑)
最後まで読んでもまだ、「俊英」なんて奴、出てこないじゃん!と思いよく見てみると・・・

 

ああ、夏はやっぱり休まないと。。。。