吉祥読本

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文壇アイドル論 --斎藤美奈子

80年代前後に頭角を現した作家たちを取り上げ、当時の評論家たちの言葉を引用しながら
「作家論」論を展開している作品です。
村上春樹俵万智吉本ばなな林真理子上野千鶴子立花隆村上龍田中康夫
取り上げられています。

 

最近は評論家の書いた本をほとんど読んでいませんでした。
遠い昔は小難しい批評本も読んだものですが、今ではきっと睡眠導入にしかならないでしょうね。
ですが、ラガマフィンさん斎藤美奈子さんに関する一連の記事を読むにつけ、
その切り口に興味が涌きました。

 

80年代は、本や音楽が一気に新しい次元に突入した時期という印象があります。
この作品に取り上げられている作家さんたちは当時、時代の先端に躍り出て
爆発的なエネルギーを振りまき、その後の文壇に、そして社会的にも多くの影響を
与えた人たちだということは、好き嫌いは別として否定することはできません。

 

斉藤さんはそんな作家たちの作品を論評するだけではなく、それらに対する評論まで読んだ上で
時代解析を行うのですからその読書量たるや半端ではないはずです。脱帽です。
決して力んだ論評ではなく、優しい言葉で書かれていますが多少?の毒が含まれています。
ただ、あまりにもバッサリと語るので、かえって爽快で笑えたりもします。

 

俎上に載せられている作家さんたちの作品を事前に読んでいるとこの「作家論」論は
より面白いのでしょうが、読んでなくてもその切り口を見せられるだけで十分楽しめました。
当時の評論、雑誌、新聞それに週刊誌やスポーツ新聞などの見出しなどが引用され、
それにより斉藤さんの主張に独特の説得力が感じられると共に、当時の社会状況が透けて見えてきます。



俵万智吉本ばなな上野千鶴子作品に関しては読んだ事がありません。
上野千鶴子に至っては名前すら知りませんでしたが「アグネス論争」の主役のひとりということで
ああそんな人がいたなと思い出した程度です。
林真理子の「ルンルンを買っておうちに帰ろう」、田中康夫の「なんとなくクリスタル」は
借りて読みましたがナナメ読みしたためほぼ記憶がありません。

 

ノンフィクションライターの立花隆に関しては私が読まなくなった理由が、
ほぼそのまま書かれていました。
一時は面白かったんですがちょっと遠い所に行ってしまったもので(笑)

 

村上春樹はデビュー作から数作読みましたが、当時の判断では自分に合わない作家でした。
自分なりに理由を解析できているのですが、斉藤さんの論評を読んで
あながち間違ってなかったと思いました。
RPGゲームに例え、「ハルキランドはゲーセン」というフレーズに納得。
でもそろそろ素直に読めるのでは?との思いはあるので、遅いかもしれませんが
もう何作か読んでみるつもりです。

 

村上龍はエッセイを除いてほとんどを読んだと思うのですが、
正直なところほとんどが??だと思っています。
SMだ暴力だの作品がかなりあるし、なぜあんな人気があったのかというと名作が多いというより
時代に合致したタイムリーな作品を輩出できたからだと思っています。
私にとって当時のサバイバルに必要だったのはハルキではなく、リュウだったのです。
ですから「反社会的で動物的、肉体的な村上龍」がタイムリーに社会情勢と
リンクした作品を出し続けてきたのは「ワイドショー的でおっちょこちょい」だから
と断じる斉藤さんには笑いながら共感しました。

 

最も感心したのは、W村上の扱われ方に関して。
たまたま同時期に世に出た作家が、同じ苗字というだけで比較されたことに対する疑問は面白い。
名前が違っていたら比較したか、同じ村上でもいずれかが女性だったら比較対象になっただろうか、
という疑問にはそのとおりだなあ、と感心しきり。
しか~し「どうしてどうして~♪」と歌ってみても二人は実際、同じ時代に出会ってしまったんですから(笑)、
ワイドショー的比較論がもてはやされたのは、仕方のないことだなとも思います。

 

偶然ながら本書で引用されている評論のうち何冊か(川本三郎柄谷行人吉本隆明三浦雅士等)を
読んでいたため、それぞれの内容はほぼ忘れていたとはいえ(汗)、より一層楽しめた気がします。
昔読んだ本が今になって別の楽しみ方、味わいを持って目の前にでてくると、
大げさですが読書の醍醐味が味わえた気がします。

 

解説の松浦理英子さんが山田詠美中上健次や批評家の蓮實重彦柄谷行人をとりあげて欲しかった
と書いていますが、同感です。
(と言っても山田詠美蓮實重彦は雑誌などでしか読んだ事がないのですが。。。)
更に便乗すると高橋源一郎沢木耕太郎と柳田邦男に関しても取り上げて欲しかった。
今からでも遅くないのでこの7人で第二弾をお願いしたいものです。

 

それと、現在バリバリ売れている作家さんで2010年版なんてどうでしょう。第三弾で。
誰が俎上にあげられるか、大変興味があります。
あの人とあの人、う~ん、あんな人とかも(笑)