吉祥読本

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鼓笛隊の襲来 --三崎亜記

「BOOK」データベースより引用
戦後最大規模の鼓笛隊が襲い来る夜を、義母とすごすことになった園子の一家。避難もせず、
防音スタジオも持たないが、果たして無事にのりきることができるのか―(「鼓笛隊の襲来」)。
眩いほどに不安定で鮮やかな世界をみせつける、三崎マジック全9編。



文庫は当分先だなと思っていたのですが、古本屋で売ってたので単行本で入手しました。
置き場所は・・・・後で考えます。



「鼓笛隊の襲来」
 アイデアもストーリーも本作中一番よくまとまっていて楽しめました。
 考えもしなかった暖かい落とし方でした。
 展開を含めてこの短編集の中では一番のお気に入り。
 台風に対する高揚感や不安感をうまく表現していた映画、「台風クラブ」を久々に観たくなりました。

 

「彼女の痕跡展」
 アイデアとしてはよくできた作品ですね。「喪失感」をこんな形で表現するとは。
 強引かもしれませんがバスジャックの「二人の記憶」と関係している気がしましたが、いかがでしょう。

 

「覆面社員」
 バスジャック規制法の論戦の影でひっそりと覆面労働に関する法律が成立したらしい。
 社会の中での取り入れ方はバスジャックと同じアイデアだが、もう一歩心理的に深いところに
 突っ込んだ感じがする。
 覆面したら別の人格になるのでしょうか。。。とりあえず陽気なギャングが横行しそうだし、
 なってそうだし(笑)

 

「象さんのすべり台のある街」
 本物の象さんがすべり台として公園に設置されるという話し。
 「我が家の明かりを遠くから立ち止まって眺める」シーンがあるが、
 バスジャックの「しあわせな光」が根底にあるような気がします。

 

「突起型選択装置」
 ボタンがついている人間?の話し。どっかで読んだことがあるような作品です。
 この主人公は大人になってもこのボタンの正体を知らないのはなぜでしょう?
 昔はみんな知っていたのにだんだん無関心になっていった存在、ということでしょうか。
 ボタンが目の前にあったら押したくなりますね。押したら恐竜が見え始めた、
 なんてオチだったら面白かったんだけどそれじゃあ星新一です(笑)

 

「「欠陥」住宅」
 同じ家にいながらお互いに会うことができない話。
 家族のすれ違いの心象風景を 具現化してみせたような作品です。

 

「遠距離・恋愛」
 遠距離恋愛してるカップルは隣町に住んでるんだけど、その隣町が空の上って状況。
 1kmって地上だと近いけど上空だと、きっついですねえ(笑)
 ずっと上から監視されてる気にならないかなあ。

 

「校庭」
 見えてはいけないものが見えてしまうことで運命が変わるという、ちょっとホラーっぽい話し。
 忘れていいものは、忘れないといけません。

 

「同じ夜空を見上げて」
 数年前に乗客を乗せたまま消息を絶ってしまった列車と残された者の話し。
 死んでいるわけでもなく、一年に一回だけある列車に乗ると見ることができる。
 バスジャックの「送りの夏」と同様、時間をかけて喪失感と向き合う人を描いている。
 ただ、この作品では生きてる人が対象みたいだけど。異次元で。



パラレルワールドのクロスを題材とした作品は多いと思いますが、三崎さんは大上段にかまえずに
日常に潜む非日常、日常と隣り合わせの別世界をサラリと描き続けています。
この短編集はバスジャックの作品群との関係性を非常に感じました。
となり町戦争テイストも感じたので、未読ですがきっと失われた町テイストも入っているのでしょう。

 

印象に残ったのは「鼓笛隊の襲来」「校庭」でした。こういう作品は好きです。
イデアとしては「彼女の痕跡展」のような展開の作品がなかなかのデキではないでしょうか。
あとの作品は正直なところ今までの作品を焼き直したり肉付けしたり、少しひねったりした?
という印象をちょっと持ちました。

 

いずれも短編というか、もうショートショトに近いくらいの短さでしたので読みやすかったです。
「失われた町」は、、、文庫待ちします。